巻ノ百十九 大坂騒乱その七
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「わかったな」
「大坂に残る者は」
「残りたい者だけが残るのじゃ」
こう言って片桐達に暇を出させた、もっと言えば追い出した様なものだ。そうしてだった。
片桐達は城を出た、だが彼等と彼等の一門の周りはだ。
具足を着けて刀や槍、弓矢を持った兵達が固めていた。そうして。
鉄砲には既に撃つ用意が出来ていた、その今にも戦に出る様な有様で城を出るがここでだ。
彼等を櫓の上から見る大野が周りに言った。
「せめてもの情けじゃ」
「だからですな」
「ここは、ですか」
「攻めることなく」
「去ってもらいますか」
「ここで若し殺し合いにもなれば」
実際に一触即発の状況だ、出る方も見送る方も恐ろしい形相で睨み合い最早敵同士の有様だ。
「お家騒動としてじゃ」
「豊臣の名が落ちますし」
「幕府にもですな」
「とかく言われる」
「そうなりますな」
「だからじゃ」
それでというのだ。
「ここはな」
「このままですな」
「一切手出しをせず」
「そしてですな」
「そのうえで」
「出てもらう」
絶対にというのだ。
「そうしてもらうぞ」
「わかりました」
「ではそうしましょう」
「ここはですな」
「何もせずに」
「そういうことでな、それでじゃが」
大野は周りにさらに言った。
「問題はこれからじゃ」
「では」
「いよいよですか」
「幕府はですな」
「我等を攻めてきますか」
「切支丹のことでな」
大野もこのことが問題であるのはわかっていた、しかしそれでも彼は茶々の言うことにはどうしても逆らえないのだ。
それでだ、こう言うしかなかった。
「戦になる」
「それでは今より」
「戦の用意をしますか」
「そうしてですな」
「そのうえで」
「その覚悟はしておこう」
今からというのだ。
「各地から浪人達も集めるか」
「では」
「そうしてですな」
「そのうえで」
「我等も」
「我等に何があろうとも」
「右大臣様をお守りするぞ」
こう周りの者達に言った。
「それはよいな」
「我等は豊臣家の臣です」
「臣ならば何があろうともです」
「それは果たしてみせます」
「命にかえても」
「頼むぞ。若し戦になり若しもの時になれば」
その時はとだ、大野は周りの者達に話した。その中には彼の二人の弟達もいて彼等にも話している。
「それを必ず果たしてくれる御仁がいて欲しいな」
「我等の中におるか」
「そうした者が」
「我等の中にはおらずとも」
それでもとだ、大野はまた言った。
「天下にはおる」
「と、いいますと」
「兄上にはどなかた心当たりが」
「真田源次郎殿じゃ」
幸村、彼だというのだ。
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