アネモネ〜園田海未〜
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───その直前、私は思い出した。それは走馬灯のように流れてきて、一つの物語へと変わっていく。
『ねぇお母様〜。このお花、なぁに?なんてゆうお花なの?』
『海未、その花は”アネモネ”っていうのよ。私の一番大好きなお花』
幼き私の前の、小さな花瓶の中で咲き誇る”アネモネ”
丁度咲き盛りの時期で、その花々はまるで瞑目した美少女のような艶やかさをもっていて、開かれた窓から吹き込むそよ風で、小さな花の絨毯のように揺れ動いていた。
『綺麗でしょう?そのお花』
『うん!とってもきれい!私、このお花大好き!』
私の自慢の青い長髪も、真似するように揺れていて心地よさを感じていた。
花瓶の中の黄と紫と赤のアネモネはまるで私とお母様、お父様のように見えてしまい、思わずこんなことをこぼした。
『お母様、なんだかこのお花、私たちみたいだね』
『本当ね。私とお父様と、海未だわ』
『うん!仲良しこよしで咲いているね!私たちもアネモネみたいにず〜っと仲良しでいられるかな?』
『大丈夫よ海未。いつまでも、三人で一緒に幸せに暮らしていきましょ』
『うん、ずっと一緒だよ!ふたりともだぁーいすき!』
日課の稽古の時は当然、いつでもどこでも厳格で、自分の信念に一切の揺るぎを見せないお父様が大好きだった。
私を立派な女性に育てたくて、だけど感情表現が苦手なお父様は叱って正すことで愛情表現を示してくださった。
そんな不器用なお父様が大好きで、同時に心の底から尊敬していた
そのお父様にいつも叱られて泣いて、慰めたり励ましてくださるお母様が大好きだった。
昔からずっと泣いてばかりで、そんな私を嫌な顔一つ見せず抱きしめるお母様。
抱きしめられた時に感じるお母様の温もりが忘れられなくて、高校生になっても時々甘えてしまった時がある。
そんな優しくて暖かいお母様が大好きで、尊敬していた。
───夜空に浮かぶのは、空いっぱいに広がる星の光。
「お......かあ、さま......」
昔三人で眺めた夜空と同じくらい綺麗だった。
声がかすれる。体温が下がる。眠くなる。
だけど、遠くから私を呼ぶ声に耳を必死に傾ける。
その声の持ち主は、私が愛し、尊敬してやまなかった両親の声だ。
「むかえに......わざわざこなく、ても......よかった、のですよ?」
久しぶりの再会に、強がりを見せてしまう。
だけど、これでよかった。良かったと思う。
頬を伝う温かい雫。
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