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あの人の幸せは、苦い
4. 役不足
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 隼鷹に強引に外に連れ出された私だったが、隼鷹に手を引っ張られながらしばらく歩き続けることで、次第に頭も冷静になってきた。

「ちょっと待って! 離してって!! 隼鷹ッ!!」

 有無を言わさない迫力のまま、隼鷹は私の右手……いや、右手首を掴み、町中をスタスタと歩く。振りほどこうとしても、隼鷹の力はとても強い。おかげで私は、ほとんど引きずられるように、隼鷹の背中を追って歩くことしか出来ない。

「……」

 私の精一杯の抵抗を受け流し続ける隼鷹の背中は、戦争の頃ほどではないにしても、妙に大きく、迫力がある。決して言葉には出さないし、隼鷹はこちらを見ないから表情も見えない。だけど、この大きな背中から伝わるのは、怒りだ。

「離してって! 歩けるから! 一人でも歩けるから!!」
「……」
「離してよッ!!」

 渾身の力を振り絞り、私は隼鷹の手を振り払った。こちらを振り返る隼鷹は、肩で息をしている。背中しか見てなかったからわからなかったが、隼鷹は息を少し乱していた。

 そして意外にも、隼鷹の顔は、別に怒ってなどいなかった。ただ、冷たい目で、私のことを見下ろしていた。

 私が足を止め、そして隼鷹も立ち止まる。

「何!? 何なの!?」
「……」
「用事って何!? 私、聞いてない!」
「……」

 まくしたてる。いきなり『用事があるから』と言われ、外に出された。呆気にとられてなすがままの私だったが、ここまで連れてこられれば、頭もクリアになってくる。頭がいつもの回転を取り戻した私は、そのイライラを隼鷹にすべてぶつけた。

「……あんた」
「なに!?」

 頭に血が上った私に対し、隼鷹が冷酷な問いかけをかける。それは、私の頭を冷静にさせるには、充分な一言だった。

「あたしが割って入らなかったら、何を言うつもりだった?」
「……へ」

 ……訂正する。私の頭が冷静になるだけでなく、私の全身から、血の気が引いた。

「なにって……」
「何言うつもりだった? あたしが店から連れ出さなかったら、ハルに何を言うつもりだった?」
「私は……」

 そんなの分からない。あの時は、私は何も言うつもりはなかったし、ハルの袖を掴むつもりは毛頭なかった。だけど、私の手が、私の口が、私を無視して、勝手に……

 ……いや、それは嘘だ。私はあの時、ハルにこう言おうとした。

――私は、ハルが好き

 確かにあの時、私の口は私の制御を離れていた。でも、あの言葉を口走ってしまうその瞬間、私はあえて、その口を閉じようとするのをやめていた。

 その言葉を吐いてしまえば、ハルを困らせてしまうことは百も承知だった。今日は、球磨とハルの結婚式。それなのに、私は、そのハルに、私の気持ちを知って欲しいと思って
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