4. 役不足
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見てほしかったんだね」
「うん……」
「ちゃんと今日に合わせて、自分をキレイに仕上げたんだね。ハルに、きれいな自分を見てほしくて。ハルに“綺麗だ”って思ってほしくて」
「……うん」
隼鷹にバレていた……でも、不思議と悪い気がしない。自分の頑張りを、隼鷹が見ていてくれていた……ただ、それがハルではないのが残念だけど……
「うん。ほんとにキレイだ。べっぴんだね川内」
「……そんなことない」
私の頭を撫で、髪に触れ、服を褒めてくれる隼鷹の一言一言に、私は次第に我慢ができなくなってきた。じんわりと視界が歪み、目に涙が溜まってくる。涙が溜まってきたことを隼鷹に知られたくなくて、私は顔を下に向けた。
隼鷹の手が私の頭から離れた。その後私のほっぺたを両手で挟んで、私の顔を無理やり、自分へと向けさせる。私と目があった隼鷹は、とても優しく、私に微笑みかけていた。
涙のせいか、私の目に映る隼鷹の笑顔は、ちょっと滲んで水彩画のようになっている。けれど滲んだ笑顔の奥の眼差しだけは、スッキリと澄んでいた。
「いーやキレイだ。今日のアンタはとってもキレイだ」
「ひょ、ひょんなこと……にゃいっ」
「いや、今日のアンタは、誰よりもキレイだったよー」
「にゃんで? 今日の主役はハルと球磨じゃんっ。球磨が一番綺麗で……」
「いや……あたしには、球磨よりもあんたの方が、一番いい女に見えたよ」
意味がわからない。今日、あの場で、一番キレイなのは、主役の球磨とハルなのに……なんで隼鷹はそんなことを言うんだろう? 私は、たしかにがんばった……けど……
「だってさぁ川内?」
「……」
「確かに最後は我慢しきれなかったけど、二人のために、ずっと自分の気持ちを押し殺してたろ?」
「そんなことない……ッ! 私は……ッ!」
「そうだよ。あんたはずっと、惚れた男のために、我慢して笑ってた。自分はこんなにつらいのに、二人を笑顔で祝福してたじゃんか」
「だって……ハルが幸せになるんだよ? ……球磨だって私の友達だよ? その友達が幸せになるんだから、祝福したいじゃん……してあげたいじゃん……しなきゃだめじゃん!」
呼吸がしづらくなってきた。ひっくひっくとひきつって、息が苦しい。
隼鷹が、両手で私を抱きしめてくれた。隼鷹は、私よりも背が高い。そんな隼鷹が、私に覆いかぶさって包み込むように、強く、ギュッと身体を抱きしめてくれる。胸が痛い。身体が優しく締め付けられる心地よさに、涙が我慢できない。
「……ッ」
私の耳元で、隼鷹が静かに優しく囁いた。
「……もういいよ川内」
「もういいって……何が……?」
「ここなら、あたし以外には誰もいない。我慢しなくても、口に出しても大丈夫だよ」
「……」
「役不足
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