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あの人の幸せは、苦い
4. 役不足
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握られているわけではないが、『絶対に離さない』という隼鷹の意思だけは、手から伝わってくる。

「……」
「……」

 そうして私たちが到着したのは、隼鷹と提督のお店、喫茶店の『きっさ・ちょもらんま』。戦争が終わった後、隼鷹と提督は、以前からの二人の夢だった喫茶店を立ち上げた。店の名前は、本人たちいわく『行きつけの床屋からとった』らしい。隼鷹のコーヒーと提督お手製のケーキが評判がいいと、以前に耳にしたことがある。

 隼鷹がそんな『きっさ・ちょもらんま』の入り口を開いた。カランカランとベルが鳴り、店内の空気が流れ出てくる。

「入って」
「……」
「早く」
「……うん」

 言われるままに、店内へと入った。名前の先入観があるからかもしれないが、店内のちょっと雑多で懐かしい感じは、私が知ってる、二人の行きつけの床屋の雰囲気に似ている気がした。小さな本棚に、北上がよく読んでいた漫画が並んでいるからかもしれない。

 初めて入る店内の様子を眺めていたら、隼鷹が入り口のドアを閉じ、鍵をかける。パチリという鍵の音が心地よい。照明が点灯し、店内のそこかしこにある間接照明の柔らかい光で、店内がほんのりと照らされた。

「あのさ隼鷹」
「……」
「なんで私をお店に連れてきたの?」

 照明のスイッチから私の元へと歩いてきた隼鷹が、私の前に立つ。私は確かに、二人の幸せを壊そうとした。だから、結婚式の会場から連れ出されたのは理解出来る。でも、ここまで連れてこられた意味がわからない。私は、一体何のためにここに連れてこられたのだろう。説教をするため?

「……川内」
「ん?」

 隼鷹への疑問で頭がいっぱいになり始めた時、隼鷹が私の前まで歩いてきた。長い髪がふんわりと動き、そして一歩進むたび、キラキラと輝いた気がした。私がそんな隼鷹の髪に見とれていたら。

「……え」

 隼鷹の右手が、私の頭にぽんと乗せられた。その後隼鷹は、私の頭をくちゃくちゃにするように、ちょっと乱暴に、私の頭をなでてくれた。

「ちょ……隼鷹……」
「キレイな髪だね」
「?」
「サラッサラでキレイな黒髪だ。つやつやで痛みもないし、ちゃんと丁寧にトリートメントしてる。ほんのりいい香りがするから、ちゃんと朝にシャワー浴びて、整えてきたんだね」
「……」
「そのドレスもよく似合ってる。まさかあんたに黄色が似合うなんて思ってなかった。すごくキレイだ。可愛いよ川内」
「……ありがと」
「このセンスは……ハルかな? 普通だったら、川内は赤が似合うからそれをすすめるけれど……鉄板からは外してくるけど絶妙なこのセンスは、ハルかな?」

 そう……ハルが私に、黄色が似合うって言ってくれたから……

「そっかー……あんたは、今日の自分を、ハルに
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