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あの人の幸せは、苦い
4. 役不足
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しまっていた。

 だから私の手は、自然とハルの袖を掴んでいた。だから私の口は、私の本心を言葉にしようとした。それがたとえ、あの二人……ハルを困らせることになろうとも。

 思えば、結婚式の連絡をもらったその時から、私はハルに告白しようと思っていたのかもしれない。今着ているこの服にしても、ハルの『お前には黄色が似合う』というアドバイスを受け入れて、少しでも、ハルの記憶に私の姿が残るように……少しでも、ハルに『綺麗だ』て思ってもらえるように、この服を選んでいた。

 ……それはきっと、心の何処かで、『ハルを手に入れたい』と思っていたからだ。球磨がいつも隣にいるんじゃなくて、私が彼の隣にいたい……そう、思っていたからだ。私自身も気付かない、心の奥の本当の奥で。

 でも、隼鷹にはそれがバレていた。思えば隼鷹は、今日の結婚式の間、ずっと私を見ていた。暁と提督がはしゃいでいるときも、気がついたら私の方を見ていた。目が合う回数も多かったし、何より、トイレですれ違ったとき……

――顔に水かかってたけど、ちゃんと拭いた?

 そう言って、私を気遣ってくれた。隼鷹は、私のことをずっと見守ってくれていたんだ。私がもし変なことをしようとしたら、私を止めようとして、私のことをずっと見てくれてたんだ。

「隼鷹……あの……」
「……ん?」
「ごめん……私、ハルたちの幸せ、ぶち壊そうとしてた……」
「……」

 口に出してはじめてわかる、自分がやろうとしていたことの重大さ。確かに私はハルのことが好きだけど、もしあの場で言ってしまっていたら……ハルが好きだと言ってしまっていたら、私は、ハルを困らせていた。ハルの幸せを、壊してしまっていたかもしれない……。

「……ふぅっ」

 伏し目がちに隼鷹を見ているから、隼鷹が今、どんな顔で私を見ているのかはわからないが……隼鷹は、腰に手を当て、ため息をついた。意外にもその様子は、怒っているという風ではない。

 再び、私の右手首が、隼鷹に掴まれた。

「ぇあ……」
「行くよ」
「どこへ?」
「……」

 再び、私の手を取った隼鷹は、私に行き先を告げずに歩きだす。さっきよりも幾分落ち着いた足取りで……だけど、スタスタと勢い良く歩くスピードは変わらず。

「どこいくの?」
「……」
「ねえ隼鷹?」
「黙って歩きな」

 怒りは感じない。でも、有無を言わさない迫力はそのままだ。それっきり私の言葉に、隼鷹は返事をしなくなった。

「……」

 私も口をつぐみ、ただ静かに、隼鷹に引きずられるように、隼鷹の後をついていった。

 二人で無言で、十数分歩く。その間、いつの間にか隼鷹は私の手首から手を離し、代わりに私の手を握ってくれていた。さっきみたいに力をこめてギュッと
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