第106話 始まりの舞台、それは幻想の廃墟
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キを繰り返していた矢村様も、今は俺の動きに歓声を送ってくれている。久水や茂さんにも応援して貰ってる以上、一本先取は何がなんでも狙いたいところだ。
「――おしッ! ここを抜けりゃあ道が開けるッ!」
ビルの倒壊や地震の影響か、見るも無惨に荒れ果てている住宅街。その上を何度も跳び上がって通過していくうちに、ようやく割れ目の少ないアスファルトが見えて来る。
……別に地形が歪んでいたって走れないわけじゃないし、走れないほど酷いなら、今やってるように跳び回ればいい。だが、やはり一番速く動こうと思えば、損害が少なく平地になっていて、走り易そうなアスファルトを探してしまう。
それに「空高くジャンプしている」気分というものは、普通は着鎧している時にしか味わえないもの。そんな滅多に頼るわけでもない感覚に任せて移動するよりは、一番人間として自然体である「自分の足で走る」という手段をなるべく使っていきたい、というのが正直な気持ちなのだ。
――そんな「気持ち」は、彼女には残っているのだろうか。あの身体になったまま、十年間過ごし続けてきた、彼女には……。
ふと、そんな事が脳裏に浮かび、俺は思わずアスファルトの手前にある廃屋の上で立ち止まってしまう。そして一瞬頭を左右に振ると、再び足場を蹴ってアスファルトの上を駆け出して行く。
――彼女の気持ちなんてろくすっぽ知らないクセして、いっちょ前に同情かよ! 俺はそんなに上等な人間じゃないッ! 今できることは、彼女が助かる望みをちょっとでも捻り出すためにも、この勝負に勝つことだけだ!
あの夜に知った、四郷姉妹を縛る暗黒。所長さんが語る、その残酷な実態を聞かされた時から、彼女のことが頭を離れることはそうそうなかった。
そんな状態が続いていたから、コンペティションが始まった今になってなお、彼女のことを考えてしまうのだろう。こればっかりは、言い訳のしようのない俺の落ち度だ。
――もう、考えるのはやめだ。勝負が始まった今になって、まだ悩むなんて女々しいにも程がある! これからは、純粋に勝負のことだけに目を向けるんだッ!
そう決めて、俺は自分に言い聞かせようとした――その時だった。
「……おわッ!?」
突然、アスファルトを走る俺の頭上に、ガラスがあられのように降り掛かって来たのだ。瓦礫ならさっきのように蹴り砕けばいいのだが、細かくバラバラに降って来るガラスの破片となると、なかなかそうも行かない。
加えて、さっきまで四郷のことであれやこれやと逡巡していたため、完全に不意を突かれてしまい、もろに破片の雨を浴びてしまう。
「ぐっ!」
もちろん、着鎧甲冑を纏った今なら大したダメージなんかない。だが、避けようと思えば避けられたはずの障害だ。
……くそっ! 何
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