第105話 蒼き身体と虚構の戦場
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アリーナへとただ真っ直ぐに続く、無機質でひたすらに長い廊下。そこを渡り、抜けた先には――「地下室」と定義するには余りにも広大な、「何もない」白い世界が広がっていた。
ここが地上より下に位置しているのだと認識させている、暗く閉ざされたような漆黒の天井とは対照的に、この「グランドホール」を構成しているアリーナの床は、不気味な程に純白に包まれており、この世界が人工のものだという事実を、最上階の個室以上に訴えている。
ここにたどり着くまでに廊下を歩いていた間も、こうしてアリーナを「戦う側」から見つめたビジョンを想像することはあった。だが、現実はそんなガキの理解なんて、軽く超越していたんだ。
「何もなさ過ぎる」ことの不気味さ。それは、実際にこの場に立たなければわからないことなのだろう。昨日、あの高く遠い観客席からここを見ていた時は、こんな気持ちを覚えることになるなんて考えたこともなかったというのに。
「龍太君が出てきたわ……! 龍太君っ! 頑張ってぇーっ!」
「ホ、ホントや! フレェーッ! フレェーッ! りゅ、う、たっ!」
「鮎子……龍太様……!」
俺が廊下を抜けてアリーナに立つと、無駄に多く用意された客席の中から、救芽井達の声が響いて来る。何をやらかしたのかタンコブだらけで撃沈している茂さんに関しては、お約束ということにしてあまり触れないでおこう。
やたら気合いの入った応援をしてくれている救芽井と矢村は、久水の発破が効いたのか普段以上に元気いっぱいだ。が、そのきっかけを二人に与えたはずの久水自身には、どこか表情に陰りが見える。
自分の親友と、幼なじみ。その双方がぶつかることになる現実について、やはり思うところがあるのだろう。瀧上さんの件を知らないにしても、どことなく察している節はあるようだし、やはり不安は拭えないのかも知れない。
……心配すんな。俺が本当に向き合わなきゃいけないのは、四郷じゃない。もちろん四郷と戦わなきゃいけないのも確かだが、もっと先に立ち向かわなきゃいけない人がいるんだから。
「……よそ見してちゃ、ダメ。一煉寺さんは、ボクの相手をしなきゃ……」
「ああ、わかってる。お互い、恨みっこなしだぜ?」
すると、いつまでも外野の客席ばかりを見ていることに腹を立てたのか、当の少女(?)本人が口を挟んで来る。
遥か向こう側に立ち、スゥッと目を細めてこちらを睨むその様は、心なしかヤキモチを妬く初な恋人のような、いたいけさと切なさを孕んでいるように見えた。
……本人に聞かれたらマニピュレーターでブン殴られそうだけど。
『さて、それじゃあ役者は揃ったわね。二人とも、用意はいいかしら?』
「ああ。いつでもどうぞ!」
「……向こうに同じく……」
やがて、客席から更に高い位置に
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