第105話 蒼き身体と虚構の戦場
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ある審判席らしき場所から、ガラス張り越しで俺達を見下ろしている所長さんの声が、このグランドホール全体に轟いた。どうやら、あそこは試合の実況アナウンサーのためにあるような場所らしい。
彼女の隣に座っている伊葉さんは、まるで将棋でもしているかのような仏頂面で、俺達の姿を真剣な眼差しで貫いていた。審判をするのは伊葉さんだが、司会は所長さんが行うようだ。
あの二人があそこにいるせいで、瀧上さんは救芽井達のグループから若干離れた場所に独りで座る羽目になっている……が、本人には特にその辺を気にしている様子は見られない。
独りでポツンと踏ん反り返っているその様は、到底一国を滅ぼした男には見えないのだが――人は見かけに寄らない、ということなのだろう。筋骨隆々な体格に関しては、正に「見かけ通り」なのだが。
『オッケー。それじゃあ救芽井エレクトロニクスと四郷研究所、双方の性能を検査するコンペティションを、これより執り行わさせて頂くわ!』
すると、再び場内に所長さんの声が響いて来た。
例の興奮剤を使っていないせいだろう。明るく振る舞っているかのように見えて、その声色にはどこか暗雲が立ち込めているかのような闇が伺えた。
だが、今の俺に彼女を気遣っていられる余裕などない。今はただ、この競争に勝つことに集中するのみだ。
『では両者、自分の研究成果をこの場に提示しなさい!』
そして、所長さんの指示に応じるように、四郷の身体がまばゆい光を帯びて、あの姿へと変わっていく。俺や客席にいる救芽井達、そしていつの間にか意識を回復させていた茂さんは、その瞬間を固唾を飲んで見守っている。
「……マニピュレートアーム、展開……」
小さな少女のような、か細い身体を覆い尽くす純白の輝き。それを内側から切り裂くかの如く、二本の蒼いマニピュレーターが飛び出してきた。
その瞬間を皮切りに、彼女を覆い隠す光もその輝きを失い、人間の姿を借りる「新人類の身体」としての有りのままの姿を、この世界にさらけ出した。
彼女が普段から見せている、冷めた態度そのものを映し出しているかのような、冷たく、蒼い鋼鉄のボディ。それに加えて、眼の焦点を失っていることを除けば、今までと変わらない顔。そして、まるで別の生き物であるかのようにゆらゆらと揺れている、水色のサイドテール。
一度見たことがあるはずのその姿は、初めて見た時とは比にならない感慨を俺に与えていた。所長さんの話を聞く前と後とで違う感覚の大きさに、俺自身が驚きを隠せずにいる。
十年前、自分が慕っていたヒーローの現実に直面し、人格が崩壊してから……久水に会う日まで、地下深くにまで及ぶこの牢獄のような世界で、彼女はずっと生きてきた。
その瞬間からずっと、十五歳だった彼女の時計の針は止まったま
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