第104話 ヒーローを救うヒーロー
[1/5]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
控室を出た先にある、まるで俺が行き先を見失わないためであるかのようにまっすぐに伸びた、アリーナへと続く廊下。そこへ俺を誘ったのは迫る時間ではなく、さっきまで黙って俺達を見ていた茂さんだった。
救芽井達にはひとまず観客席に上がってもらっているため、「これから『戦う』奴」のためにある空間に立っているのは、俺達二人だけだ。
「……なんだってんだよ? こんなギリギリな時に」
「すまんな。すぐに終わらせる」
彼の纏う、今までとはどこか違った雰囲気。それを全身で浴び、自然と俺も身構えてしまう。十九歳という俺に近しい年齢とは不相応に、その面持ちは高貴さを漂わせる一方で、老成した雰囲気も兼ね備えていた。
彼は俺ではなく、どこか遠いところを見つめるように、しばらくその眼を細め――やがて、ゆっくりと俺の視線に自分のそれを交わらせる。俺のように実際に戦うわけでもないというのに、その眼差しは観客側に立つ者とは到底思えない気勢を帯びていた。
それから数秒の間を置き、彼はようやく口を開く。
「――いきなりだが、これだけは確認を取らねばなるまい。一煉寺龍太。貴様、あの答えは出しているのか?」
「な、なに?」
「『絶対に人を殺すような奴であっても、死にかけていたら助けるかどうか』……貴様は昨夜、そう聞いたな」
「……ああ」
そう。俺は伊葉さんに吹っ掛けられたあの問いを、茂さんにも振っていた。
そして伊葉さんの弁を聞いた上で、彼は「見捨てる」と断じ、「自分の思うままの正義を曲げても、味気なく、つまらないだけだ」と言い切っていたのだ。彼の中では、既に答えをそう決め込んでいるのだろう。
……それが、「独善」という名の爆弾を孕んでいたのだとしても。
しかし俺はまだ、そこにすら至っていない。答えなど考えてもいないし、このコンペティションが終わるまでは、と先伸ばしにもしていた。
「ワガハイは、これでも『人命を救う』ためにある『着鎧甲冑』を預かる男の一人。その責を果たすためならば、理念に背くとしても取捨選択は成さねばならない。その者に改心と更正の余地がないというのであれば、尚のこと。……ワガハイは、そう答えた」
「……」
「貴様は、もう答えは出ているのか? それとも、伊葉和雅の言に従い、答えを出さないままにしているのか」
――そこに引け目を感じているからなのだろう。こうまで、彼に呑まれてしまっているのは。
彼は一度言葉を切ると、苛立ちも見せず、ただ悠然と俺の返事を待ち続けている。
コンペティションの時間が差し迫っている以上、早く何か答えなければ……と焦ってしまうが、元々決めていなかった答えをいきなり出せと言われて、この土壇場で切り出せるほど、俺はアドリブは得意ではない。
コンペティション本番を目前
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ