第104話 ヒーローを救うヒーロー
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はしていない。だが彼のこの発言を聞いて、俺は確信した。
この人は、わかっている。もう、気づいているんだ。漠然でも感づきつつある救芽井達よりも、遥かに鮮明に。
全てを見通すように、閉じられる寸前まで細められた眼差し。それは槍のような鋭さを湛えていながら――微塵も威圧感を感じさせず、ただ静かに俺を見つめている。
俺は――どうするべきなのだろう。どう、答えるべきなのだろうか。
「迷い」は、人の動きをどこまでも鈍らせていく。答えを確定させないとしても、何も考えないわけにはいかない。茂さんは、そう警告しているんだ。
……茂さんのように、「人命」を優先する上で必要とあらば、殺す……? それで、本当にいいんだろうか。
「俺は、俺の答えは――」
『よく見ておけ鮎美! 世界を守るヒーローに盾突いた悪の手先が、どのような末路を辿るのかッ!』
答えを導き出すために呼び起こされた、記憶の中にある瀧上さんの姿を、恐れていたからかも知れない。
喉まで、「茂さんと同じだ」という言葉が出かかっていたのは。
――だが、実際に声として答えが出る直前に、頭に浮かんでいたのは――
『……失敗しても、いい……負けてもいいから……また一からやり直せばいいから……無事に帰って、またこうして、傍にいて……!』
――彼では、なかった。
「――助ける、と思う。茂さんみたいに、ちゃんとした理屈なんてないけど……そうしなきゃ、いけない気がするんだ」
そして、俺の口からは根拠の伴わない妄言が、放たれる。
存分にこき下ろされることはわかっている。それでも、一度この思いを「自覚してしまった」瞬間、曲げることはできなかった。
これを譲ったら、何か――とんでもなく大事な何かを、無くしてしまう。そんな気がして、ならなかったから。
一方、それを聞いた向こうの反応は、予想とは大きく違っていた。
「……だろうな。それを聞いて、安心した」
「え……?」
なぜ、そんなことを言うのだろう。自分の意見とは全くの反対のことなのに。根拠なんて、どこにもないというのに。
「その心持ち、貴様の答えとして大切に持っておけ。何があっても決して捨てるな」
「……あ、ああ」
「フッ……ここを出る前よりかは、いい顔になったな。では、邪魔なギャラリーはこの辺りで失敬するとしよう。武運を祈る」
茂さんは、俺が抱く疑問には何一つ答えることなく、そのまま俺の傍を通り過ぎていく。
いい顔……とは、なんなのだろう。吹っ切れた、ということなのだろうか。
言われてみれば――心なしか、身体が軽い。根拠なんてない、単純な俺個人の気持ちを、受け入れてくれる人がいたから……かな。
俺の答えが正しいと決まったわけじゃない。
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