第104話 ヒーローを救うヒーロー
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に控えた数分のうちに、この空間は再び、息苦しい静寂に包まれようとしていた。
「……出ていない、か。まぁ、それもやむを得まい。ワガハイも、自分の選択が神に誓って絶対のものである――とは言い切れない節があるのだからな」
「……え?」
そんな静まった空気を打ち破ったのは、その発端でもあった茂さん自身だった。彼は珍しく俺から視線を逸らしたかと思うと、意外な台詞を口にする。
「着鎧甲冑の理念に反した選択である以上、正義として自己の行いを語ることはできまい。それは樋稟の願いを踏みにじることにも、繋がりかねないのだから」
「……」
「だが、万が一そのためにより多くの人間が犠牲になってしまうのであれば、心を鬼にして、かりそめの正義を成さねばならん」
「茂さん……」
「それが間違いと云うならば、後々にいくらでも裁くがいい。ワガハイは自分の選択と責任からだけは、逃げも隠れもせん」
――例え間違いである可能性があるとしても、そこにしか正義を成せる選択肢がないのであれば、躊躇いは捨てなくてはならない。
「……だから言っただろう。『自分の思うままの正義を曲げても、味気なく、つまらないだけだ』とな」
――正義を曲げれば、犠牲が生まれる。そんな未来ほど味気なく、つまらないものはない。だからこそ、理念もろとも、悪を絶つ。
それが彼の決断であり、あの答えの意味だったのだと、俺はようやく悟る。
「だが、ワガハイはこんな話をするために、この期に及んで貴様を呼び出したのではない。いささか、前置きに比重を置きすぎてしまったな」
「な、なんなんだよ?」
そこでやっと、彼の言いたいことが何のごまかしもなしに飛び込んで来る。彼の眼の色が変わった瞬間にそれを感じ、俺も思わず眉をひそめた。
「……では、本題に入ろう。貴様が答えを出さないのは別に構わん。ワガハイでも完全な正解など導き出せなかった課題であり、完全な正解などありえないからこそ、伊葉和雅は永遠に迷い続けることこそが正義だと断じたのだろう。事実、社会的な正義など、時代に応じていくらでも変わるものであろうしな」
「……」
「だが、仮にその『迷い』に惑わされたままでいるとしたなら、救芽井エレクトロニクス――いや、樋稟の悲願を懸けた舞台に立つのは控えてもらわなくてはならない。彼女に選ばれなかった身であるワガハイでも、そこだけは譲れん」
ずい、と一歩前へと進み出て、茂さんはようやく「本題」を言い放った。その瞬間、彼の纏う気勢が俺の身に覆いかぶさるような錯覚を覚える。
まるで、彼を追うように吹き抜ける風が、俺の肌を撫でるかのように。
――確かに、思い当たる節はある。
伊葉さんの語る正義諸々への答えなんて、コンペティションが終わってからいくらでも悩めばいい
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