第103話 淫らで凛々しき女騎士
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…そうやな、頑張らないけんのは龍太なんやから、ア、アタシらが慌てとってもいけんよな、救芽井!」
「……う、うん……」
俺を特訓で鍛えていた頃の救芽井にも劣らぬ手際で、久水は俺の身の回りの世話を続けている。あの傍若無人なわがままお嬢様っぷりを見るに、こういう仕事には一番縁がないものだと思ってたんだが……。
「――龍太様」
「な、なんだ?」
その時、彼女は長椅子に腰掛けていた俺の正面で膝立ちになり、両手で俺の右手を包み込んだ。その眼差しの麗しさ、気高さには、さながら王の前でひざまずく騎士のような凛々しさが漂っている。
「今回のコンペティション、相手はあの鮎子ざます。彼女が生半可な存在でないということは、この中でワタクシが一番存じておりますわ。だからこそ、あなた様には最高のコンディションで応じて頂かなければなりません。そのためとあらば、このワタクシ――命すら捧げる所存でしてよ」
「い、命って……別にそんな――」
「龍太様を不安にさせるようなことは、ワタクシとしても大変申し上げにくいのですが……今回のコンペティション、ただの技術競争で終わるとは思えませんの。下手をすれば兵器にも成りうる、最新鋭技術同士の一騎打ちともなれば、もしものことが考えられます。勝つためにも、そして無事にお帰りになられるためにも、決して油断は許されない戦いになるでしょう」
俺の手を取り、真っ直ぐに見つめて来る、その瞳。決してぶれることのない、槍のような一直線の眼差しでありながら、その眼の色に鋭さはなく、むしろ優しく包み込むような暖かささえ感じさせていた。
……もしかして救芽井だけでなく、久水もどこか、瀧上さんの影を感じているのだろうか。いや、下手したら矢村や茂さんも、心のどこかでずっとそれを気に留めているのかも知れない。
「ですから、それさえ心掛けて頂けるなら……ワタクシ、あなた様ならば必ず勝てると確信しております。お兄様に勝って見せたあなた様なら、必ず。それに、ワタクシは――どのような結末でも受け止める覚悟を、既に決めておりますの。だから……あなた様はあなた様の思うままに、ただ前を走りつづけて頂きたいのです。決して振り返ることなく、がむしゃらに……」
そこまで言い切ると、やがて俺の前から立ち上がり、彼女は背を向ける。
「それでは……御武運を、お祈りしておりますわ」
「――お、おう!」
……僅か。ほんの僅かだが、その細い肩が、震えているように見えた。
「……今日ばかりは、気圧されるわけには参りません……! りゅーたんのために、今こそ勇気が必要な時でしてよ、久水梢ッ……!」
ぶつぶつと何を呟いているのかわからない――が、自分を奮い立たせるための自己暗示をしているようにも見える。……彼女も、やはり緊張はし
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