第103話 淫らで凛々しき女騎士
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ニクス側の女性陣二名は、ほぼこの場の雰囲気に呑まれてしまっている……と言い切らざるを得まい。代表選手が俺なんだからしょうがない気もするけど。
しかしそんな彼女達に引き換え、久水兄妹の落ち着きようには、見ているこっちが圧倒されそうだ。救芽井達の心境を豪雨に晒された濁流とするなら、向こうはさしずめ快晴の下で澄み渡る下流、といったところだろう。一瞬、こちらに向けられた真摯な視線に、思わずドキリとしてしまった。
救芽井達の強張り過ぎた顔を見たおかげで、逆にある程度まで落ち着いてしまっている俺でさえ、あそこまで済ました顔はできない。二人とも、散々見せ付けられたあの痴態が嘘であるかのような、静けさ故の凛々しささえ感じさせている。
そこでふと、俺は所長さんの話に出てきた、この兄妹の活躍を思い返した。
――四郷を守ろうとした時も、あんな顔をしていたんだろうか……。
……やがて最下層のグランドホールに到達し、控室まで人工知能に案内され、そこで所長さんや瀧上さん、四郷らの研究所側メンバーと別れたのだが。
「龍太様。念のため、『救済の超機龍』のバッテリー残量の確認を。それから、各種機能の点検も済ませておきましょう。柔軟運動も必要でしてよ」
「……あ、ああ」
――未だに、空気が重苦しい。
少なくとも、多少は気心の知れた間柄であるはずの、俺達しかこの場にいない、というのに。
ロビーに来て、エレベーターに乗り、決戦の地であるグランドホールまでたどり着く。
そこまでの道程で、救芽井と矢村の二人とは、とうとう一度もまともに言葉を交わすことがなかったのだ。まるで、この冷たい牢獄のような空間に同化して、人格もろとも凍り付いてしまったかのように。
おかげで、広大な決闘場を前にしても、それが気掛かりな余り感慨に耽ることすら出来なかった。「生気」の一切を遮断してしまうかのような、この無機質を極める次元が、本来その場でもたらされるべき緊張感すら麻痺させてしまっているのだろうか。
今、俺達が身を置いているのはスポーツの大会によくあるような、ありふれたロッカールーム状の控室。だが、出場する選手は俺一人。
にもかかわらず、俺以上にこの二人の方が緊張してしまっているのである。
「龍太様、肩が上がっておりましてよ。どうぞ、楽にしてくださいまし」
「あ、うん……ありがと」
そんな中で、涼しい顔をしてアドバイスやマッサージをテキパキとこなす久水の胆力とは、いかほどの凄まじさなのだろうか。壁にもたれ掛かって腕を組み、こちらの様子をジッと見守っている茂さんの表情も、いつになく真剣だし。
「ひ、久水、お前ずいぶん落ち着いてるよな。なんつーか、迫力感じるんだけど」
「――全ては、龍太様を想えばこそ、ざます」
「そ…
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