暁 〜小説投稿サイト〜
あの人の幸せは、苦い
3. 気持ちは、伝えられない
[6/7]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
―ダメだよ川内ちゃん!

 ……ごめん那珂。体が言うこと聞かない。口が勝手に言葉を並べようとする。これを私が言ってしまえば、ハルを困らせてしまう……それがわかっているから、私は必死に口を閉じようとするけれど、私の口が言うことを聞かない。

「あのさ……」
「おう」
「あの……私……ハル……が、す「ハルごめーん!!」

 寸前のとこで、私の両肩にずしりとした重みが加わったことを感じた。私の口がハッとして、言葉を紡ぐのをやめる。手もそれに合わせて、ハルの袖から手をパッと離した。

「おー隼鷹もおかえり」

 慌てて振り返り、私の両肩にのしかかったものの正体を確認した。私に寄りかかっていたのは、さっきトイレですれ違った隼鷹だ。

「じ、隼鷹……」
「ごめんって、何だよ」
「あのさ。言ってなかったけど、あたしと川内、これからちょっと用事があって出なきゃいけないんだ」
「えらく急だなぁ。お前が浴びるように飲んでもいいように、二次会用に樽酒を準備しといてやったのに?」
「うん」

 ハルは少々困惑していた。きっと隼鷹からは何も聞いてなかったに違いない。きっとそうだ。私自身、このあと予定があるなんて初耳だし。

 隼鷹はハルに対し、『タッハッハッ……彼はこのことは知ってるから。ごめんね』と言いながら、私の手をギュッと握っていた。いつもの隼鷹に比べ、手の力が、とても強い。

 その手が告げる。

――出ろ

 怒気のこもった声を聞いたわけでも、憤怒の形相を見たわけでもない。だけど、隼鷹の手の力の強さは、私に有無を言わさない迫力を感じた。隼鷹の怒りのような感情を、私は手の平を通して、感じていた。

 だから私は、それ以上、口を開くことができなくなった。そんな私の様子をハルは心配そうに見つめるが、私は何も言うことが出来ない。ただ伏し目がちに、ハルと隼鷹の顔を交互に伺うことしか出来ない。

「……そっか。まぁしゃーない。んじゃ樽酒は次の機会にするか」

 ふうとため息をついたあと、ハルはそう言って腰に手を当てた。

「ありがと。じゃああたしたち、もう行くから」
「あいよ。提督さんには何も言わなくていいのか?」
「大丈夫。彼にはもう出るって言ってあるから」
「そっか」
「うん」

 私が口を挟まないのをいいことに、ハルと隼鷹が勝手に話を進めていく。ひとしきり話がついたところで、私は隼鷹に手を引っ張られ、店内から引きずり出される形で、ミア&リリーを後にすることになった。他のみんなはまだ球磨を胴上げしている。私たちの様子に気がついてない。

「んじゃまたな! 樽酒を飲む時は川内も来いよ!!」
「……」
「ありがと! んじゃまた今度!!」

 笑顔で手を振るハルと、それに笑顔で応える隼鷹。私は
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ