3. 気持ちは、伝えられない
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き以上に乱れたハルが、自分の髪の毛を整えながら立っていた。他のみんなは嫌がる球磨を抱え上げ、みんなで胴上げをしはじめていた。
「そーら! 球磨、おめでとー!!」
「?ぉぉおおお!?」
球磨の野太い悲鳴が店内に鳴り響く。ハルはそんな様子を、苦笑いを浮かべながら眺めていた。
「ハル」
少しだけ軽くなった胸にホッとし、私はハルの隣に移動した。
「おー川内」
「胴上げしてるの?」
「ああ。さっきは俺がされてな。突然でびっくりした」
自分の髪の乱れを整えながら、ハルは苦笑いを浮かべていた。私に向けられるハルの眼差しは、あの頃と変わらない。優しい……とても優しい、眼差しだ。
でもその後、胴上げされ、戸惑いながらも嬉しそうに悲鳴を上げる球磨に向けられるハルの眼差しは、それとはちょっと違う。私に向ける眼差しに比べて、柔らかく、そして暖かい。
「……なー川内」
「……んー?」
「来てくれて、ありがとうな」
――私を見て こっちを向いて
ハルが、胴上げされている球磨を眺めながら、私に感謝を告げる。彼が今、球磨に向けている眼差しは、私にはもう、永遠に向けられることはない。
「突然どうしたの?」
「いや、みんなに礼は言うつもりだったんだけどな……お前が第一号だ」
「そっか」
「おう」
ハルが私に顔を向けた。……確かに笑ってはいるけれど、その顔は、いつもの笑顔で……球磨に向ける眼差しとは、違う眼差しで……今まで平気だったのに、今だけは、その眼差しを向けられるのが辛い。私はハルから顔を背け、球磨の方を見た。
「お前らとも知り合えたし、アイツとも出会えた……俺は幸せだ」
「そっか」
「だからそういう意味でも、俺はお前たちに感謝してる」
――いらない 感謝なんか、聞きたくない
「……だから、ありがと。ほんとに」
「……んーん」
「お前も早く、幸せに……」
――いやだ
……やめてハル。それ以上はやめて。ハルの口から、そんな言葉は聞きたくないし、言われたくない。
――チクチクッ
「……」
「……川内?」
私の手が、私の意識から離れた。私の心が押さえつけていられないほど、私の体が、ハルを欲しているらしい。知らないうちに私の手が、ハルのタキシードの袖を、ほんの少し、つまんでいた。
「……」
「どうした?」
――姉さん!
神通の声が聞こえた気がした。私も手を離したいが、体が言うことを聞かない。ほんの少しだけつまんでいたはずなのに、今は、力を込めて、ギュッと袖を鷲掴みしている。
ハルが困ったように、眉を八の字にして、眉間にしわを寄せているのがわかる。わかっているけれど……
「……ハル」
「ん?」
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