3. 気持ちは、伝えられない
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好きな人が、幸せになった日なんだ。泣いちゃいけない。私が泣けば、その人に余計な心配をかける。泣くな。涙を流すな。
「うう……ひぐっ……」
再びうつむく。蛇口から勢い良く流れ出る流水に、一滴、水しぶきが落ちた気がする。
――姉さん……
……分かってるよ神通。認めちゃいけない。これは、涙なんかじゃない。水道から飛んだ水しぶきが、私の目に入って、それが流れたものなんだ。私は、泣いてない。
――川内ちゃん……負けないで
大丈夫だよ那珂。私は頑張れる。あの人の幸せだと思えば、こんな胸の痛み、どうってこと無い。……大丈夫だよ。大丈夫。
不意に、ガチャリとドアが開き、私の胸に嫌な緊張が走った。ハッとして、入り口を見る。
「ぁあ、川内」
「……隼鷹」
ドアの前にいたのは、さっきまでみんなと一緒に二人を祝福していた隼鷹だ。私の顔を見て、一瞬だけ怪訝な表情を浮かべたが、その顔はすぐに、いつもの飄々とした笑顔へと戻る。
「……どうしたの?」
何か話さなきゃと思い、私はマヌケな質問を口走ってしまった。トイレに来る理由って、一つしかないのに。
「……いや、トイレに入ろうと思って」
「そっか……うん。まぁ、そうだよね」
「うん」
当たり前の返答を返す隼鷹は、そのまま何も言わず、トイレの個室へと消えていく。バタリとドアが閉じた。
私は蛇口を閉めて水道を止めた後、未だ水しぶきで濡れた目尻をハンカチで拭き、出入り口の取っ手に手をかけた。
「なー川内」
「んー?」
その途端、隼鷹の声がトイレに響く。再び私の胸に緊張が走り、心臓を不快感が襲った。胸のあたりに、バクバクと嫌な感触が走る。
――お願い 気付かないで
「……なに?」
「化粧は大丈夫か? 崩れてない?」
「うん。今日はほとんどしてないから」
「そっか……顔に水かかってたけど、ちゃんと拭いた?」
「うん」
「そっか。ならいい」
その後は隼鷹は何も言わない。私は念のため洗面台に戻り、鏡でもう一度自分の顔を確認した。
――ひどい顔だ……
無理をして、ニッと笑う。幾分顔色がましになった。これなら、ハルの前に出ても大丈夫だ。私は再びドアに手をかけ、トイレを後にした。
胸に妙な緊張を抱えたまま、私はトイレから店内に戻った。足取りが少々重いが、頑張って戻るしかない。
「んじゃー次は球磨の番ね!」
「く、球磨はいいクマっ」
「何言ってんのさ。ハル兄さんも胴上げされたし、球磨姉もされときなよ」
「そうよ! じゃないと一人前のレディーには……っ!」
「そう……だー……クカー……」
「加古……胴上げしながら寝るのはよせ……」
私が店内に戻ると、タキシードがさっ
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