虹架
[3/9]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
と仕事を終わらせてお姉ちゃんたちと遊ぼうと思ったのに、勝手に仕事は入れられるし! スメラギがいればいい感じに調整してくれるのに、アメリカに残ってるし!」
チェーンロックに阻まれて半開きとなった扉の向こう側には、癇癪を起こしたような七色の姿があった。アメリカの方で残った仕事を片付けているというスメラギへの愚痴も入ったその姿に、母もさっきまでの拒絶の姿勢を忘れたかのように、ポカンとあっけにとられていて。
「えっと……だから、要するに! あたしだってね、まだお母さんに甘えたい年頃なわけ!」
「……あ」
「あたしを捨てただとか気にしてるなら、今から償わせてあげるわよっ――」
世界的に有名なVR空間に対しての専門家。それと同時にアイドルとしても売り出され、そちらでも成功を修めている天才少女――そう、ただの少女。いくら世界的に有名だとしても、七色・アルシャービンという少女は、目の前で癇癪を起こして母を求める少女なのだと。
「…………」
それが分かったのか、母は静かにチェーンロックを外すと扉を開けていた。かつて英才教育などいらないから普通の少女として育って欲しい、と祈りながらも手を離した少女が、母の温もりが欲しいなどと誰よりも『普通の少女』として成長していたからか。
「あ……な、なんてね! お母さんを騙すなんて、天才アイドルのあたしには簡単なことっていうか!」
「うん、うん。ところで七色はさ。今、時間ある? 朝ごはんを食べてるんだけど」
「えっ……う、うん。大丈夫!」
そうして開け放たれた扉を見て、ようやく我に返って自分の癇癪を思い出したのか、慌てて演技だったと取り繕う七色を、虹架は家に迎えると。素早く《オーグマー》で予定のチェックや誰かへの連絡を済ませる七色を後目に、チェーンロックを外したまま動こうとしない母の様子を伺ってみれば。
「……昨日の残りしかないわよ」
……母は、そんなことを力なく笑いながら、ようやく口に出していた。
「……ありがとうね、お姉ちゃん」
それから別れていた間の時間を少しでも埋めるように、短いながらも母と子供の食卓が催された。七色はまだ甘えるのが下手なようだったし、母はまだ七色に後ろめたさがあったようだったが、これからまだいくらでも距離を縮める機会はある。きっといつかは元の家族に戻れるはずだと、姉としてのフォローに入った虹架は思って。
「ううん。七色が勇気をだしたから。わたしは関係ないよ」
「あ、あれはだから……演技だってば!」
「うん、うん」
「むぅ……あ、そういえば……」
そうして誰もが出かける時間になったということで、虹架は七色が乗せられてきたという車に同乗させて貰っていた。本当は母も乗せてもらうつもりだっ
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ