虹架
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なく、科学者として表舞台に立つ時に着ている、幼い体つきに合わせた特注のスーツ姿であった。
「っ――虹架!」
目の前に誰かが立っているか把握した母の行動は早く、七色が何か行動を起こす前に扉を閉めると、振り返って虹架を糾弾する。その表情からは本当に怒っている様子が見てとれて、虹架は反射的に身をすくませてしまうが、そこはアイドルとして身に付けてきた演技力で表に出さないようにして。
「お母さん。せめて七色の話は聞いてあげて。そうしたら……わたしも七色も、もう諦めるから」
「あー、あー。お母さん、聞こえてる……わよね。この天才少女七色ちゃんによれば、この声量ならドア越しにちょうどいいから!」
虹架が逃げ場を塞ぐように立ちはだかりながら、七色の控えめな言葉がドア越しに聞こえてきた。とはいえ妙な口振りや声色からして、少し緊張しているようではあったが、これから虹架に出来ることは祈るだけだ。そうして真摯に見つめていた虹架から目をそらすと、母は観念したかのように扉へと向き直った。
「……何かしら」
「あ……その、あたしはね。また家族で一緒に暮らしたくて……」
「私は嫌よ。それに、ロシアにいるお父さんも嫌だと思うわ」
母から放たれた冷たい声に七色は少し気圧されてしまったようで、絞り出した抗弁もすぐに反対されてしまう。息を呑む気配がドア越しにも伝わってきて、迷っているのか七色が何も言わない間にも、そのまま母は容赦なく言葉の剣を振り上げた。
「……私はあなたを捨てたようなもの。あなたには悪いけど、会いたくないの」
「そんなの……あたしは……」
「あなたが気にしないなんて言っても私は気にするわ」
「…………」
どうして――と、虹架は心中で母に訴える。そんな苦しい表情をして七色に言葉の暴力を打ち付けて否定するぐらいならば、今すぐ扉を開けて七色を抱きしめてあければ、すぐにでも楽になれるだろうにと。それでも母がその選択肢を取れない理由は、子供を捨てた最低の親であるという負い目があるからだというのは、虹架にも分かっていたけれども。
「お姉ちゃんと会うのを止めたりしないから。もう……ここには」
「――ああ、もう! 分かったわよ!」
このままでは誰にとっても幸せな結末は訪れない。虹架もたまらず会話に割って入ろうとした時に、扉の向こうから七色の怒った……というよりは、ヤケクソになったかのような声が聞こえてくると、勢いよく七色の方から扉が開かれていた。もちろんチェーンロックに阻まれ、中途半端にしか開くことはなかったものの、あまりの勢いにチェーンが軋むほどで。
「家族で一緒にとか、お姉ちゃんがどうとか、あたしは正直に言っちゃえばどうでもいいの!」
「え?」
「今回だってさっさ
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