01過去への跳躍
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アキト、天河明人」
自分の腕の中にある儚い命。それを愛しげに抱きながら、そっとささやいた。
「貴方はどんな子になるのかしら? でもきっと、幸せになってね」
その言葉が通じたのか、嬉しそうに笑っているアキト、しかしそれ以前の光景は、まばゆい光に包まれ、何も見えなくなって行った。
(幸せ…… に……)
火星上空
『ラピス、目を覚まして下さい、ラピス』
ラピスは長く短い夢を見た、何か大切な記憶、しかしそれは覚醒と共に失われて行った。
「ここはどこ、時間は?」
『火星軌道上です、人類の標準時間を外れました。惑星の位置による時間観測は… 何者かが私に語りかけて来ました。私と同じ存在、オモイカネではありません、異星人の人工知能です』
言葉しか話せなかったアイちゃんと違い、様々な方法で対話を試みるユーチャリス。そして共通語が50から100を越えた辺りから、急速に対話が進み始める。
(アキト、答えてアキト、過去に来たよ、異星人とユーチャリスが話してる。きっと助けてくれるから、もう少しがんばって)
しかし、ラピスの目の前で、ボソンの輝きを放ち、存在そのものが希薄になって行くアキト。
「いやっ、消えないでっ! 私を一人にしないでっ!」
ユーチャリスからも、消えゆく生命と、それを嘆く幼い生命。保護者を失う恐怖と苦痛が伝えられたが、向こうにもそれを止める手段は存在しなかった。
「アキトーーー!!」
マントや服だけを残し、アキトは消滅した。
『ラピス… ラピス……』
しばらく呆然としていたラピスだったが、哀れにも狭い艦内を、アキトを求めて探し回っていた。
「アキト、シャワーなの? トイレ? わかった、ブラックサレナを見に行ったの? でもあれはフィールドジェネレーターが無いから、火星には降りられないよ」
『ラピス、彼らから回答が有りました、不完全なジャンプによる副作用、それはジャンパーの消耗と、最悪の場合には消失を起こします。その予防法も提示されましたが、消失者の復旧は不可能です』
不可能と言う言葉を聞いた瞬間、ラピスの感情が爆発した。
「うわあああっ!! 黙れっ!! アキトはっ? アキトはどこだっ!? アキトの体内センサーを探せっ! どこにいるっ!!」
髪を振り乱して頭を抱え、自分の髪を引き千切る。血走った目からは涙があふれ、ガチガチと歯の当たる音がする口からは、泡のような物が出て来た。
『彼は治療用ベッドの上にいましたが、肉体部分の全てをロストしました。ラピス、貴方のフィジカルデータに異常があります。早急に治療を必要とします、ベッドに移動して下さい』
ユーチャリスの「彼は治療用ベッドの上」と言う言葉を信じて、ふらふらと歩いて行き、やがてアキトの残したマントの上に倒れ込むと、鎮静剤や薬を注入された。
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