広報官トーゴー ───最後の卒業生───
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クリーニングを頼む」
テレビ局での打ち合わせも済ませてから広報室に戻った。夫婦の承諾が取れたことは報告してある。
「お疲れさん」
「さすがだな」
「明日はいい画が撮れるよ」
まだボードには未処理の印も多く、あちこちで電話の呼び出し音が鳴り響いている。
完全な事務仕事はある程度の時間はかかるものの、片っ端から片づけていけばよい。
軍幹部の出欠、送迎車の手配、その後の食事会にしても似たようなイベントはあったのでマニュアルがある。椅子を並べるなどの会場準備は人海戦術で、足りなければ士官学校の学生を呼び、バイトの手配もしてあった。
敗戦が決定した瞬間からトーゴーたちは走り続けている。
広報官の派手な動きは公開前の戦況をマスコミに悟られてしまうが、そこは協定を守れば見返りがあることをトーゴーは徹底して理解させた。
今回で言えば、遺族席の撮影と式典終了後のインタビューがそうだった。以前は遺族の撮影は遠景で、ましてや囲みでのインタビューなど不可能だったのだ。
「また必殺技を使ったのかい?」
「土下座なんかして軍人としてのプライドはないのか」
「あったらできないだろうよ」
電話応答の声に混じってそんな声も聞こえてきた。
「だったら───!」
次の台詞を察知してブラウンの腕を掴む。続いたのは独り言にしては大きな発声だった。
「プライドはあるさ。広報官としてのプライドならば」
ブラウンが振り返り、今度は彼に向かう。
「同盟軍大佐としてのプライドもあるぞ。だから土下座でも何でもできる。土下座しても俺は何も傷ついてはいない。服も顔も洗えばいい。任務の為だ。
もしお前が艦隊司令官で、敵司令官に土下座をして会戦に勝てるとしたらどうする? 土下座などやすいものだと思うんだがな。
昔、戦場では敵の大将の首を取れば戦闘は終結した。負けが確実になった時、自分の命と引き替えに臣下と民を助けてもらったという話もある。自分の命惜しさに部下も護るべき市民を見捨てる者もいるというのに。
それと比べたらどうだ。
今俺たちがしなくてはならないのは、あの人たちにマスコミの前に立ってもらうことだ。その為ならば何でもする。最善の結果を出す為の土下座で、艦隊司令官が全艦発射の命令を下すのと変わらない。
もちろん俺だって好んで土下座したいとは思わないがな。誠心誠意尽くして、話し合いでどうにかできたらとは思っているさ。
あの墓の中は空っぽだ。遺体も遺品もない。戦死の知らせだけで息子の死を受け入れるしかないんだ。どうしてうちの息子が、と思っているところに慰霊祭だ、マスコミのインタビューとくれば、さらに「何故?」となるだろう。
こっちも適当に選んでいるわけじゃない。
効果を狙って百万を越える戦死者の中から選んだ遺族だ。
国防委員長
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