広報官トーゴー ───最後の卒業生───
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トーゴーは広報室にいるのだろう。背後はある種の戦場なのがヤンにも感じられた。
「そっちはどうだ? 承諾取れたか?」
言いながらボードを見る。
広い会議室が臨時の広報室になり、ボードは書き込みと張り付けられた写真で一杯だった。
ヤンが敗残兵の収容に追われていた頃、広報官たちも不眠不休の戦いを強いられていた。しかもそれはヤンたちがハイネセンに還った後も激しくなる一方だった。
会場は作戦本部ビルなので問題ない、国防委員長を始め、軍幹部の参列も予定を割り込ませた。
慰霊祭では遺族席の一番前に座ってもらい、その後にマスコミの取材を受けてもらう、それをどの遺族も二つ返事で引き受けてくれるわけではない。
どんなに遠くからでも往復の交通費と宿泊費は軍が出す、泊まりはハイネセン市内の最高級ホテル、慰霊祭当日も並ぶことなく着席できる。ハイネセン観光もその間の宿泊費も軍持ち、他にも望みがあれば可能な限り対応する。もちろんホテルと作戦本部ビルは送迎付きだ。
この条件で引き受ける遺族もいるが、もう息子は豪華ホテルどころか食事もできない、敵の大群に囲まれてなぶり殺しのような状態だったという話は本当なのか、作戦ミスではないか、と逆につかみかかられることもあった。
「……ここはどうしても欲しいな」
トーゴーが指した写真は幼い子供を抱いた家族写真だった。隣には両親と一緒の写真もある。
「ハイネセンまでは来てます。両親だけですが。嫁はショックで寝込んでいるとかで」
「慰霊祭の方は?」
「そこまでは……でも石碑のことは伝えてあります」
「そうか」
敗戦確定の時からトーゴーは慰霊祭を計画し、一部の兵士の墓を急遽用意させた。
ハイネセンを見下ろす丘の上に広大な墓地がある。ほとんどの中はカラだ。遺体の一部でもあればよいのがボタン戦争と言われるようになった時代以降の常だった。
軍が催す慰霊祭などどうせ軍賛美のものだし、一番前の席で目立つのも、ましてやインタビューなど受けたくはないとは言っても息子の墓があると聞けば、それだけは別だろう。
「ホテルを出たようです」
「こっちも出よう」
トーゴーは礼服を着込みながら天気予報を確認する。
墓地の入り口で地上車を降りた頃には、降り出した雨が小さな水溜まりを作り始めていた。
「これを……」
傘と一緒に渡された花束を受け取り、調べてあった場所へ向かった。ハイネセン市街を見下ろす小高い丘には、幾つもの傘の花が見受けられる。
「……あの……」
同盟軍の礼服を来た人物が息子の墓の前で立ち止まったことに訝るような視線を向ける。トーゴーはすでに家族が供えた花の横に持参した花束をおいた。
「息子のお知り合いで……?」
父親らしき人物は尋ねる。戦死したことは知っていたとしても、墓の場所ま
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