広報官トーゴー ───最後の卒業生───
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うかは調べてから取り次いでいるが、当然だろう? あいつらにとって、嘘のうちに入らないレベルだからな」
「でもその電話は盗聴しているんですよね」
「だから、したいわけじゃない。やむを得ずの措置だ。あいつらはマイクは突きつけるがそれ以上のことはしない。それがどれほど精神的に追いつめるのかは知っているが、その行為自体は法を犯しているわけじゃないからな。だから手出しは絶対にしない。
官舎を出たとたん、カメラとマイク攻撃はあったが、一人として家族の腕や肩を掴む者はなかった。目当ては家族の肉声と姿だからだ。
だが世の中にはリンチに手出しが不可能なら家族でもいい、と思う輩もいる。そう、例えば巻き添え食って捕虜になった者の家族とか……
お前と一緒にエル・ファシルから脱出した奴らはいいさ。昇進まではいかなくとも民間人を連れての凱旋だ。親類縁者鼻高々だろう。
たまたま上官が違っただけだ。自分が選んだ上官でも部下でもない分、不満もあるだろうよ。
いろいろと加減が難しいんだ。単純な負け戦の方が楽だったね。エル・ファシルの英雄に軍のイメージアップをしてもらいながら、少将の行為は行為として批判は受け止め、しかし部下にまでは累が及ばないようにフォローする。軍隊は厳しいが、それだけではない、護りもするとアピールしないと退役者が続出だ。勧誘にも影響する」
トーゴーからの電話を受け、ヤンはあの時のことを思い出していた。
「単純ではなかったんだが……」
しかし会戦の流れを順序立てて思い返してみれば、そこまで複雑ではなかった。
同盟軍が勝手に帝国軍の動きを決めつけ、それしか考えなかったからである。ヤンの作戦案は禄に目も通されないまま却下された。
「ヤン准将に一言挨拶して欲しい」
アスターテ星域からようやくハイネセンに帰りついて早々、作戦本部ビルに足を踏み入れたとたん、トーゴーから電話がかかっていると伝えられた。ヤン・ウェンリーの姿を見たらつなぐようにと、もう二時間前から通話状態だと受付の女性兵士が受話器を渡して来たので、それは受け取らないわけにはいかなかったのだ。
明日の慰霊祭の話だった。
「いやです」
トーゴー相手にまどろっこしい言い方はしていられない。 エル・ファシルの時には訳がわからないまま流された。結果は軍の広告塔となり、テレビ局を回り、手を振り、記念写真を撮り、腱鞘炎になりそうな握手責めにあった。
「一応壇上に席を用意しようと思っている」
「それもいやです」
挨拶もだが、何よりも国防委員長と一緒の演壇上など真っ平ごめんで、さすがにそうとは言わない程度の大人の対応が、この時にはできた。
「そうか。残念だが仕方ない。慰霊祭には参列するだろうな」
「ええ、階級通りの席なら座ります」
「わかった。明日はよろしく」
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