広報官トーゴー ───最後の卒業生───
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して嘘ではないのだから、ユリアンは堂々と答えていた。
悩んだのは、今、この時間にヤンが官舎にいることを知っての電話だったことと
「まだそこにいるんだろう? 我らが英雄どのは」
すぐに取り次がなかった時の相手の物言いが気に障ったからだ。
しかしだからこそ受話器を叩きつけることができなかった。
ヤンにすり寄る電話なら同じ意味合いでも別の言い方をする。ユリアンにさえおべっかを使ってくる。だがトーゴーと名乗る男の言い種はどうにかしてヤン・ウェンリーと話したい輩のものとは違った。
「少々お待ちください」
子機に切り替えると寝室のドアをノックする。返答がないのはまだ眠っているのだろう。
昨夜、簡単な夕食を用意してあったが、ヤンは寝室へ突進した。寝間着に着替えるのは無理でも、そのままだと寝苦しいはずだと、ユリアンはシャツとズボンを文字通り引き派がしにかかった。その間、ヤンはされるがままで、ベットカバーの上で眠りかけていたのを、ユリアンがぐったり重たい身体の下から毛布を引っ張り出したのだ。
「……提督、お休み中に申し訳ありませんが」
いつものように小声で言ってから、これでは目的が達成できないことに気づき
「提督、起きてください」
声と一緒に揺り起こしにかかった。
「お電話です」
「…………うーん……電話? 私はいない」
枕を抱いてヤンは寝返りを打つ。
「……いることはバレてます」
ユリアンはこの会話を、電話の向こうの人物にはあまり聞かせたくはなく、声を殺しているのだが半分寝かけているヤンは状況把握ができていなかった。
「……ヤン・ウェンリーはアスターテで戦死した……そーゆーことにしてくれ」
「無理です、それは」
相手がキャゼルヌあたりなら、ヤンらしいと笑って済ませ緊急でなければ「生き返ったら連絡しろ」となるところだが今回は異なった。
「起きるんだ、ヤン・ウェンリー」
子機からの大音量だった。ユリアンは驚いて子機を取り落とし、ヤンもびくりと肩を震わせ、続いて目をこすった。
「……提督、お電話です」
拾い上げた子機を手の平に押しつける。
「…………この電話は現在 」
これまで散々通話しておいてそれは無理、とユリアンが心の中でつっこんだ時、ヤンの上体がゆらりと起きあがった。
「……はい、生きていました」
まだ声はしゃっきりとは程遠いものの、ヤンはベッドの上にあぐらをかき、子機配達員にはひらひら手を振る。
もちろん寝室のドアに耳を押しつけるようなユリアンではない。そしてヤンもドア越しで簡単に聞こえるような話し方をするわけもない。
しばらくしてヤンが居間に現れた。まだ寝足りない顔をしている。
「いいタイミングです」
こちらにどうぞ、とリビングテーブルに誘われた。ユリアンなりに考えて
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