第4章 それは歪な正義の味方
第102話 始まりの朝
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タシダイデス』
「所長さんが……?」
まぁ、確かにライバル同士が同じテーブルの上で向かい合って朝メシ、というのはさすがに気まずいよな。俺もそんな空気の中で食うメシが美味いとは思わねぇよ。
――もしかしたら、所長さんが昨日のことで気を遣ってくれたのかも知れないな。この研究所の素性を聞いた以上、あの瀧上さんと一緒の部屋で朝メシだなんて地獄過ぎるぜ。
向こうの責任者にまで「勝ってほしい」なんて言われた手前、プレッシャーで胃を痛める事態になんかなったらカッコ悪いどころの騒ぎじゃねーよ。
『コンペティションハ、午前九時カラグランドホールニテオコナワレマス。朝食ヲ取ラレタ後ハ、八時ニハロビーニシュウゴウシテクダサイ』
「おう、ありがとうな。お前もお勤めご苦労さん」
『イッテオキマスガ、ワタクシハコウリャクタイショウデハアリマセン。ユエニフラグモタタナイノデ、アラカジメゴリョウショウクダサイ』
「いや知らねーよッ!」
……にしても、ここの人工知能はところどころズレてる連中ばっかだよな。いい加減、ツッコむのも疲れてきたよメカラッシュ……。
やがて働き者かつお喋りなロボットが去り、この空間に静寂が訪れると、俺はゆっくりと盆に乗っていた朝食に手を付けていった。
香りの根源たる野菜スープ。重過ぎない程度に肉を使っているサンドイッチ。そして、シャケを具にしたおにぎり。……久水家のような豪華さはないが、どことなく家庭的な暖かみを感じるメニューだ。
それに昨日の朝メシとは、まるで雰囲気が違う。まるで、たまに帰ってくるウチの母さんが作ってくれる朝食のような――
「もしかしてこれ……所長さんの手作り?」
――と、勘繰った瞬間。俺は、この時感じた暖かさを形容するに足る言葉を見つける。……これが「お袋の味」ってヤツなんだな、きっと。
朝食は量そんなに多くはなかったが、完食するまでにはたっぷり時間を掛けた。理由は、二つある。
一つは、どこか懐かしさと暖かさを湛えている、この「お袋の味」ってヤツを、少しでも堪能しておきたかったから。
もう一つは――これが、最期の食事となる可能性があるからだ。
今回のコンペティションで、結果としてどちらに軍配が上がろうが、良からぬ事態に陥る可能性がなくなるとは考えにくい。俺達が勝てば何をしでかすかわかったものじゃないし、俺達が負けてもすんなり帰してくれるかは怪しいもんだ。
だが、仮に何かあったとしても、俺はこのコンペティションから逃げ出すわけには行かない。負けるわけにも行かない。救芽井にも、所長さんにも、約束してしまったのだから。
……そうであるからには、最期までこのコンペティションには付き合って行かなくてはならないのだろう。例え俺が、どうなっても。
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