第4章 それは歪な正義の味方
第102話 始まりの朝
[2/4]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
ために作られた書籍を、俺のために救芽井が直々に一から書き直した代物であるらしい。「婚約者のために精魂込めて書き上げた最高傑作」であるがゆえに「完全版」なのだ――というのが、彼女の弁である。
俺が松霧高校の受験を控えていた時も、彼女が書いた参考書が役に立ったんだよな。アレのおかげで合格出来たと言っても過言ではあるまい。
参考書といえば、それと完全版とで共通する点が一つある。……どんなに真面目な解説をしているページでも、可愛くデフォルメされたイラストが必ず使われている、というところだ。
本来なら、保健体育の教科書にありそうなリアルタッチのイラストが使われている部分が、彼女の描くほのぼのキャラに全取っ替えされているわけである。
つまり、黒板に数式を書いている二頭身の象さんや、狼さんを電磁警棒で撃退するウサギさんのイラスト等が、至る所に描かれているのだ。……ウサギさんにそんなことやらせてんじゃねーよ……。
しかしまぁ、これのおかげで堅苦しさが取れて勉強しやすくなったのも事実だ。それにオツムが弱い俺のために、内容自体は同じでも、極力専門用語の多様は避けて書かれている。
一般資格者に回されているマニュアルと、この完全版との余りの違いに仰天したのはいい思い出だな。
こういう可愛いイラストにこだわるところを見るに、やっぱり彼女も女の子なんだなぁ……と、えもいわれぬ微笑ましさを覚えたことも少なくない。
「コンペティション直前」という非常に切迫しているとも言える状況下でも、こういうところに目を向けていられるだけのゆとりがあるのは、きっと彼女の心遣いの賜物なのだろう。
初めて見たときは「バカにしてんのか!」と腹を立てていたもんだが、この場違いなほどの愛らしさが、今では掛け替えのない「癒し」として作用しているのだ。
本そのものを一から書き直す根性は元より、その気立ての良さには心底頭が下がるよ。全く……。
『朝七時。朝七時。チョウショクノオジカンデス』
「あっ、やべ……もうそんな時間か。――あれ? なんでお前がメシ持って来てんの?」
その時、自動ドアのシュッと開く音が聞こえたかと思ったら、立て続けに筒状ボディのロボットがいきなり部屋に上がり込んで来た。しかも、そのロボットに付いている二本のマニピュレーターの上では、朝食を載せたお盆が食欲をそそる香りを放ち続けている。
気がつけば、完全版に目を通しだしてから一時間近く経過していたのだ。ここまで時間を忘れて読書に没頭出来たのは、後にも先にも今日くらいのものだろう。
昨日の朝食は食堂に集まって摂っていたし、今日もそうだとばかり思ってたんだが……違うのか?
『コンペティションニムケテノイキゴミガユラガナイヨウ、アユミショチョウノハイリョニヨリコウナッ
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ