第100話 明かされる真実と括られた腹
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ョン自体を口実に凱樹の現状を調査して、危険とあらば今度こそ彼を葬り去ろうとしているのかも知れないわ。彼を知っている者ならば、それが自然な判断だもの」
「なんだって!?」
そこへ、所長さんは俺の思惑を見透かすような台詞を口にする。その内容の毒々しさに、俺は思わず目を見開いた。
「あなたも見たでしょう? 海辺に潜んでいた不審者。既に予想は付いてるでしょうけど、あれは恐らく救芽井エレクトロニクスの手の者。社長令嬢の救芽井さん自身も知らないところで、日本政府と救芽井エレクトロニクスが何らかの連携を取っている節があるわ」
「そ、そんなことが……!」
――ない、とは言い切れなかった。
甲侍郎さんとゴロマルさんが、アメリカの本社をほっぽり出して松霧町に来ている点。甲侍郎さんと伊葉さんが友人関係であり、双方とも似たようなことを俺に忠告していた点。思い当たる部分は、確かにあるのだ。
しかし、所長さんはなんでそんな話を俺に……?
「……もし救芽井エレクトロニクスと日本政府が、公正さを欠いた手段で私達の制圧に来ることになったら、凱樹は間違いなく修理と強化改造を経た『新人類の巨鎧体』や、自作の人工知能式私兵部隊で迎撃してくる。そうなったら、この四郷研究所を舞台に、さっきのビデオのような大惨事が起こるわ!」
「そ、そんなッ……なんとかならないのか!?」
「正々堂々、ルールに沿ってコンペティションを行い、あなた達が勝てば……説得次第で穏便に収められる可能性もある。彼も十年前に比べれば、かなりおとなしくなってるもの。だけど、もし上手くコンペティションを運べなかったら……この研究所は戦場になる」
……だから、所長さんは「勝って欲しい」のか。確かに、そんな事態に発展しようものなら、四郷の身に何かあってもおかしくはない。恋人の妹を機械にするような奴の傍に彼女がいる以上、姉として下手なことは出来ないってことか……。
「――この培養液の中で、この娘の身体は十年間も同じ姿で眠り続けている。いつか、来るかもしれない――『人間』として目覚める時のために。……私は、鮎子だけは、何があっても生きていて欲しいのよ。例え私と凱樹が地獄に落ちるとしても、この娘だけは……」
所長さんは何かに吸い寄せられるように立ち上がると、緑色の液体の中で眠る妹の本体を見つめ、それを覆うガラスの上にそっと手を添える。
……自分と瀧上さんへの報いに、彼女だけは巻き込まないで欲しい、という願いを込めているかのように。
「……私が伝えたかったのは、ここまで。最後まで付き合ってくれて、ありがとう」
「――ああ」
泣き顔を、見られたくないのだろう。上擦った声で呟く彼女の背を一瞥し、俺は踵を返す。
だが、立ち去る寸前で――ずっと気掛かりだった
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