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フルメタル・アクションヒーローズ
第100話 明かされる真実と括られた腹
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ヒーローだった頃が懐かしくて、ここへ逃げ込んだのかもね」

 彼女の手にある写真は恐らく、その時に撮られたものなのだろう。――それを撮った当時のカメラマンも、その時は今のような自分になるとは想像もしなかったのではないだろうか。
 かつて、キャンプに使われていたこの丘で広げられたのはテントではなく、この研究所だったってわけか……皮肉なもんだ。

「私達がそうしたのは、政府に取っても都合が良かったみたい。異国で大量殺戮を働いた日本人なんて、国際社会においては大問題だもの。彼が向こうにいた頃は『謎のハイテクテロリスト』ということにしてシラを切れたけど、こっちに帰って来られたらそうも行かないからね」
「伊葉さんは、裏切られたってことなのか……」
「そうなるかしらね。あの人もショックだったはずよ。自分が信じたヒーローが、最凶最悪の殺人鬼になるなんて……ね。結局、伊葉さんはその責任を取るために総理大臣を辞職し、瀧上凱樹という人間もいなかったことにされた。今じゃ、その名前を知っている人間は政府の上層部でも稀でしょうね」

 やがて彼女は力が抜けたかのように、スッと写真を元の位置に戻すと、ベッドの上に静かに腰掛けた。

「それから十年間、私達三人はこの閉鎖空間の中で静かに暮らし続けた。凱樹は『来るべき戦いのため』と言って自室でトレーニングの毎日だし、私は過去を忘れるために机にかじりついて、研究と開発をただひたすらに繰り返していたわ。そして鮎子は……梢ちゃんに出会うまで、一歩も研究所の外に出なかった」
「久水に?」
「……つい最近のことよ。私が『いずれ外に出る時のために』って買ってあげた帽子を、彼女が勝手に持ち出したの。鮎子もそれを大事にしていてくれていたらしくって、珍しくカンカンに怒って彼女を追い掛けたわ。……それが、あの娘が初めて研究所を出た時のことだった」
「――あいつらしいな。そういう強引なとこ」

 つい最近ということは、四郷研究所が久水家にスポンサーとしての誘いを掛けた時のことだろう。それが、あの二人の出会いだったんだよな……。

「凱樹が着鎧甲冑と救芽井エレクトロニクスのことを知って、『新人類の身体』と四郷研究所の力で、その名声と威光を奪い取ろうって言い出した時の頃ね。あの機械の身体に『新人類の身体』という名前が付いたのも、この頃よ。『この技術が普及すれば、超人的能力が普遍的なものになる。それは正しく「新人類」であり、オレはその頂点にあるんだ』……っていう意味合いでね」
「そういうことだったわけか……で、久水と四郷はどうなったんだ?」
「あら、ごめんなさい。話が逸れたわね。ここからは私が直接見たわけじゃないんだけど――茂君の運転するスポーツカーで逃げてた梢ちゃんを追い掛ける最中で、鮎子は隣町の火災現場に出くわしたらしいの。
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