第99話 爪痕の姉妹
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してみせた。私がそのあと告白したのは……彼の肉体を奪った罪を背負うために、一生を賭けて尽くしたかったからなのかも知れないわね」
所長さんはそこで小さくため息をつくと、俺の後ろで静かに眠る「四郷の本体」へ視線を移す。過去を懐かしみ、羨み、憂いているその眼差しには、例えがたいやるせなさが漂っている。
――にしても、四郷以外に「新人類の身体」がいたのは驚きだ。確かに、今の話が事実なら、あの迫力の背景にも繋がるかも知れない。
「鮎子と違って、凱樹には本体がないわ。ヤクザとの抗争で彼の肉体は死を免れない程に損傷していて、もう二度と『人間に戻る』ことはできなくなっている。それでも彼は、私を怨まずに……感謝すらしていたわ。『これで、もっとオレは正義のために戦える』……ってね」
「自分が人間じゃなくなっても、何とも思わなかったってのか……?」
「そうよ。『生まれも育ちも松霧町』の彼にとっては、『悪をくじく力』こそが全てだった。ヤクザを倒して、自分に『それ』が備わってると知った彼は、もっと先へ進もうとしたのよ」
「もっと、先?」
ここから先の話に、彼があの殺気を纏うようになった経緯があるのではないか。そう予感せずにいられなかった俺は、反射的に身構えてしまう。
俺自身の訝しむ表情からその内心を悟ったのか、彼女は小さく頷くと、唇を小さく開かせて話を再開した。
「『世界の紛争地帯に流れる血を止めたい』。彼は当時の総理大臣だった伊葉和雅に、そう具申したのよ」
「総理大臣に直接会いに行ったのかよ……どんだけアグレッシブなんだ」
「ホントにね。……だけど、彼は本気だった。それを行える力を持っている分、余計にね。伊葉も松霧町を救ったヒーローの頼みとあっては、無下にできなかった」
「それで……瀧上さんを海外に出したってのか!?」
「支援らしい支援はなかったけどね。少しの旅費と開発費だけを渡して、彼は私達を海外へと送り込んだわ。上手くいけば大々的に世界にヒーローとして報じるけど、しくじれば一部の日本人の勝手な行動として国は関与しない、という条件付きだったけど」
「トカゲのしっぽ切り……ってヤツか」
「仕方ないわよ。下手なことされて国際社会での信用を落とされたら、たまったもんじゃないもの。……だけど、伊葉さんは凱樹のことはかなり買ってたわ。例の条件も、周りを納得させるための建前みたいなものだったみたいだし。――眩しかったんでしょうね。この時世に、あんなに正義感のある人がいるってことが」
――眩しかった、か。
そういえば俺も、「皆の命を助けたい」って奔走してる救芽井を見た時は、遠い空で光る星を見るような気持ちで眺めてたんだっけ。……今じゃすっかり近くに立っちゃってる感じだけど。
「最初の内は、彼は上手くやっていたわ。兵士の
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