第99話 爪痕の姉妹
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賞賛されたくらいなのよ」
「へぇ……」
あの恐ろしい雰囲気を全身に纏っていた瀧上さんに、そんな背景があったってのか? なんとも不思議な話だな。
……でも、なんか変だな。そんなに凄い人なのに、まるで聞いたことのない名前なんだけど。松霧町生まれで松霧町育ちの俺だけど、瀧上さんの話を聞いたのは今が初めてだ。
所長さんの話が本当なら、誰もがその存在を知っているべきだろう。だが、俺よりは長生きしてるはずの商店街のおっちゃんやおばちゃんや、交番のお巡りさんも、そんなヒーローみたいな人の話をしていたことは一度もない。強いて言うなら、以前の救芽井が扮していた「救済の先駆者」の話くらいだ。
だが、真っ赤な嘘だとも思えない。実際に戦っているところを見たわけじゃないが、あの眼光の持ち主なら、それくらいやりかねないだろう。あんな眼差し、ちょっとやそっとの修羅場で身につくモンじゃない。
「私は、そんな彼にずっと恋い焦がれて……高一の春先、思い切って告白したの。彼も了承してくれて……本当に幸せだった」
瀧上さんのことを語るに連れて、次第に若返るかのように「恋する少女」の顔に近づいていた所長さんの表情は、この瞬間にピークを迎える。バスタオル一枚という過激な格好には似合わない、少女としての可憐さがそこにはあった。
「彼と会う前は、機械工学の研究者を代々輩出してる実家の意向に従って、海外の研究所で学んでいたけど……日本にいた両親が実験中の事故で亡くなって、葬儀のために帰国してから、私は失意のどん底だったわ。親戚に厄介払いとして松霧町に転居させられてからは、一緒について来た鮎子だけが心の支えだった……」
「所長さん……」
「ヤクザには身体目当てで狙われるし、鮎子を学校に通わせるのも危険過ぎるしで、本当にあの時は地獄だったわよ。だけどあの人は……そんな地獄を、平和な町に作り替えてしまったの。惚れるのも、無理ないでしょ? しかも妹まで彼に夢中になっちゃって。あの頃は彼を取り合って、いつも大喧嘩だったわ」
自分の過去を語る彼女の姿は、惚気話に興じる年頃の少女のようで、今までには見たことも想像したこともない姿だった。だが、そこから先のことを話そうとする内、表情に陰りが見えて来る。
……始まるんだな。そこから、何かが。
「でも、所詮は彼も生身の人間。何十人も纏まって武装したヤクザには、敵うはずもなくて……瀕死の重傷を負うことも、珍しくなかったわ。彼がヤクザを倒して町の平和を取り戻せたのは、そのための力を私が『造り出した』からなの。……両親が命懸けで完成させようとしていた、肉体ではなく内臓を覆う、鋼鉄の鎧を……」
「……まさか『新人類の身体』か!?」
「そう。機械の身体を手に入れた凱樹は、ヤクザ共を次々に薙ぎ倒して……町の平和を取り返
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