第99話 爪痕の姉妹
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た。
自分でも、その反応が正しいのかはわからない。もしかすると、これも伊葉さんの云う「独善」の姿なのかも知れない。だが、そうであろうとも、今の俺には叫ぶことしかできないんだ。
……少なくとも、妹をこんな姿で、こんな所に十年も閉じ込めている内は。
だが、彼女は剣呑な態度を見せる俺に怯むこともなく、それが当然のことであるかのように涼しい顔をしている。……いや、涼しくはない。罰を受けて、それを是としている表情だ。
「仕方ない」といいたげに切なさを滲ませた表情が、彼女の胸中に良心の概念があることを俺に伝えようとしている。それは信じるべきなのか、疑うべきなのか……?
「ふぅ……そうね、そうよね。賭けてみるって、決めたんだものね」
「……?」
「どこから話せばいいのか……。言っておくけど、あんまり面白い話じゃないわよ」
――その面白くない話を聞かせるために、あんたはここに呼んだんだろうが!
……という気持ちが顔に出ていたのだろう。所長さんは俺の表情に苦笑を浮かべると、「わかったわかった」とうるさげに手を振る。
怒りは感情のコントロールを狂わせると言うが、確かにコレは制御が難しい。何にこの気持ちをぶつければいいのかもわからないまま、ただ感情だけが燻り続けているのだ。
その胸中に渦巻く憤怒を押し殺そうと唇を噛み締め、拳を握り締める。その様子をしばらく見守っていた所長さんは、俺の制止を拒むように震えていた身体が止まる瞬間、それまで重く閉ざされていた口を開く。
「私の助手……凱樹とは話したかしら?」
「……? いや、あんまり。顔を合わせたことはあるけど」
「そう。……凱樹とはね、松霧高校で出会ったの」
「松霧高校!? じゃあ、あんた達ってOBだったのか? ……つか、それと四郷のことで、何の関係があるんだよ」
「あるわよ。私の隣に凱樹がいたから、今の鮎子があるんだから」
最初に切り出されたのは四郷ではなく、あの瀧上さんの話。何の繋がりがあってのことなのかは知らないが、彼を語る所長さんの瞳は、ここではないどこかを見ているようで――少女のような、いたいけな色を含んでいるような気がした。
――言われてみれば、この人達の名前、校長室で見たような……?
「凱樹は当時の松霧町では、正義感と腕っ節の強さで有名な子でね。強盗や引ったくりが絶えなくて、治安の悪かったあの町の状勢を、たった一人でひっくり返してしまったのよ」
「あの人が……? まぁ、確かに昔は『ヤクザの詰め所』なんて言われるくらい、治安が最悪だったらしいけど……」
「えぇ。彼が当時の松霧町を実質的に牛耳っていた、ヤクザの組を単身で制圧してからあの町は変わったわ。田舎町には違いないけど、活気は出たし血が流れることもなくなった。名誉町民として
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