巻ノ百十九 大坂騒乱その六
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「我等とて無念です」
「このままでは大坂が危うくなります」
「太閤様から受けたご恩を想うと」
「どうしても」
「わしは幼い頃に太閤様に拾われた」
片桐も己の身の上を話した。
「そしてじゃ」
「今に至りますな」
「三万石の禄に豊臣家の執権」
「そうなられましたな」
「虎之助や市松程ではないが」
加藤や福島、やはり秀吉子飼いであった彼等には流石に劣るがというのだ。片桐はさらに話した。
「大名じゃ」
「ですな、そうなられましたな」
「三万石と」
「そのご恩がある」
一介の小童だった自分をそこまでしてくれたというのだ。
「三万石は幕府の計らいにしても」
「その基は、ですな」
「やはり太閤様ですな」
「あの方ですな」
「そうじゃ、それで思うが」
しかしというのだ。
「無理でももう一度だけでもな」
「茶々様にですな」
「何とかお目通りし」
「そうしてですな」
「切支丹を認めることを撤回して」
「国替えも」
「そして茶々様ご自身もですな」
江戸入りもというのだ。
そしてだった、片桐は。
すぐに動いた、既に大坂城での彼を見る目は危ういものがあったがそれでもであった。彼は。
茶々に目通りを願った、しかし。
大蔵局からその話を聞いてだ、茶々はすぐに苦い顔で彼女に言った。
「会わぬ」
「そうされますか」
「誰が会うものか」
これが茶々の返事だった。
「絶対にな」
「そうですか、しかし」
大蔵局も流石に茶々があまりにも頑ななのでこう言った。
「せめてです」
「会うだけでもか」
「されては」
「よい」
だが茶々は頑ななままだった、ある意味非常に彼女らしかった。
「せぬ」
「左様ですか」
「返すのじゃ」
「そうですか」
「二心ある者には会わぬ」
あくまでこう言うのだった。
「だからじゃ」
「では」
「わらわはあの者にもあの者と似たことを言う者にも会わぬ」
流石に大蔵局も片桐のことをよく思っていなくとも幾分情けを出したがそれも無視されてだった。
それでだ、片桐は茶々に会うことも出来なかった。それでだ。
片桐はここでだ、遂にだった。
決意した、それで親しい者達に告げた。
「出ようぞ」
「会われませんでしたな」
「茶々様は」
「そうされましたな」
「予想通りでしたが」
「わしもわかっておった」
片桐にしてもだ、茶々が自分と会わないことはだ。
だがそれでも言いたかったがそれが適わずだった。無念のまま。
片桐達は城を出た、茶々に暇を願う文を出して。
茶々はそれを見ずにだ、すぐに言った。
「わかったと伝えよ」
「では」
「去りたい者は去るのじゃ」
大野に告げた言葉だ。
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