巻ノ百十九 大坂騒乱その三
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「しかし」
「それでもか」
「遊びに。旅に出られてはと」
「それ位ことか」
「国替えと江戸入りは」
片桐が言ったそれはというのだ。
「そしてです」
「切支丹のこともか」
「注意する様にとは言われましたが」
家康の言葉をそうしたものと考えているのだ。
「しかし」
「それ以上のものはか」
「なかったです」
そうだったというのだ。
「わらわが聞いた限りでは」
「では片桐は何故ああ言った」
「幕府に合わせて先に動いたのでは」
これが大蔵局の読みだった。
「何か」
「確かに幕府はな」
「はい、以前からです」
「そうしたことを言っておったわ」
茶々もこのことは幾度か聞いていたので覚えている、それで大蔵局に対してもこう答えたのだ。
「大坂から出てじゃ」
「他の国に入られてはと」
「わらわもな」
自分のことも述べた。
「江戸に入ってはとな」
「あまつさえですな」
「大御所殿が言っておったわ」
その家康がというのだ。
「わらわを正室にとな」
「左様でしたな」
「冗談ではないわ」
茶々はこれ以上になく顔を顰めさせて述べた。
「全く以てな」
「はい、茶々様は右大臣様のお母上です」
「天下人の母であるぞ」
秀吉の子を産んだ者だというのだ。
「そのわらわが何故じゃ」
「大御所殿の奥方になぞ」
「なれる筈がない、わらわはもう二度とじゃ」
それこそというのだ。
「夫を迎えぬ」
「決して」
「そうじゃ」
まさにというのだ。
「太閤様がお亡くなりになった時に決めたのじゃ」
「もうどなたともですな」
「婚姻は結ばぬ」
「ご夫君は太閤様だけ」
「二度も夫を迎えるなぞ」
それこそというのだ。
「貞節を乱す」
「全くです」
「それにわらわはおのこなぞじゃ」
こうも言うのだった。
「欲しくないわ」
「はい、茶々様はそうした方ではありませぬ」
「そうじゃ、ふしだらなことはな」
決してというのだ、実は茶々はそもそも色には興味がない。気質としてそうしたことには極めて疎遠なのだ。
「決してせぬしな」
「だからですな」
「このこともじゃ」
家康からの正室にという誘いもというのだ。
「断っておるのじゃ」
「それがよいかと」
大蔵局もその通りと答えた。
「茶々様が正しいです」
「そうであるな」
「まことに」
「全く、ふざけておる」
幕府、ひいては家康はというのだ。
「全てじゃ」
「突っぱねられますな」
「そうする」
こう大蔵局に答えた。
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