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あの人の幸せは、苦い
2. 胸が、少し痛い
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すクマっ」
「おれだけの淑女の次ぐらいにキレイだぞ球磨!!」
「アンタ、あたしが明日張り倒す」

 相変わらずの提督と隼鷹はさておいて……

「く、クマ……」
「なんだよみんなに挨拶しろよ」
「うう……」

 クマがハルのすぐそばに逃げるようにやってきて、ハルの袖をちょいっとつまむ。その後ぐいっと引っ張って自分の元に引き寄せた後、

「……っ」
「? どうした?」
「は、恥ずかしいクマ……」

 真っ赤な顔でそう言った後、私たちから顔を背け、ハルの胸に顔を押し付けていた。ハルの腰に手を回し、結構な力でハルにしがみついているのが、見ている私にも伝わってきた。

「あ、あの球磨が甘えてるわ……!?」
「か、可愛い……」

 初めて見る球磨がハルに甘えている姿に、私はもちろん、みんなも驚愕の表情で浮かべる。

 鎮守府にいた頃は、球磨はどちらかというと男の子っぽい子だった。いつもハーフパンツ履いてたし、事あるごとにハルに肉体言語系の激しいツッコミを入れていたし。あの頃の二人は、恋人同士や思い合っている二人というよりは、腐れ縁の幼馴染という雰囲気が強かった。

 だけど。

「なんだよ。いつもみたいに傍若無人に振る舞えよ妖怪アホ毛女なんだから」
「だ、黙れクマっ」
「みんなの前で甘えられると俺まで恥ずかしい」
「こ……今晩、張り倒す……クマっ」
「はいはい……」

 こんな風に甘える球磨と、球磨だけに優しい笑顔を向けるハルを見て、二人は、本当の意味で、結ばれていたんだなぁと実感した。

――チクッ

 二人を祝福したい気持ちとは裏腹に、私の胸に、小さなまち針が刺さっていた。その痛みはとても小さいけれど、いつまでもいつまでも、チクチクと疼き続けた。

 だからか、そんな私を隼鷹がジッと見つめていたことに、気が付かなかった。

 不意に鳴った、『パン』という軽い破裂音にハッとする私。主砲の音ととても良く似ているけれど、あの時よりも耳に心地よくて、クセのある火薬の匂いが鼻についた。

「ふたりとも、おめでと」

 いつの間にか起きていた加古が、笑顔でクラッカーを握っていた。加古の頭に、色とりどりのテープが乗っかっている。クラッカーから飛び出した紙テープが、加古の頭にかかったみたいだ。

「……ははっ」
「そうね」
「そうよね」

 そしてみんなの『おめでとー!!』の大合唱とともに、クラッカーが火薬の匂いを周囲に振りまきながら、パンパンと次々に鳴らされた。

「ありがとう! みんなありがとう!!」
「ありがとクマ……みんな、ありがと……クマっ」

 満面の笑みの二人に降りかかる、たくさんの紙テープ。以前は戦場の空気でしかなかった火薬の匂いが、今は幸せの香りとして、
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