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あの人の幸せは、苦い
2. 胸が、少し痛い
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。そして、そのことに、心の何処かでホッとしている自分に気がついた。

 左右の信号機の青が、パカパカと点滅しはじめた。

『先に進まなければならなくなる』

 言い知れない不安が私の胸を襲った。即座に首を振る。

 点滅していた信号が赤に変わった。前を向き、息を整える。

――行こっ

 うん。わかってるよ那珂。行こう。背筋を伸ばし、目の前の信号が青に変わるのを待つ。やがて交差点を行き交う車たちが動きを止め、しばらくの間のあと、目の前の信号が青に変わった。

「よしっ」

 意を決し、私は再び走り出した。


 腕時計を見ながら必死に駆け、北上の喫茶店『ミア&リリー』の前に到着した時、すでに約束の時間を30分ほど過ぎていた。これがフォーマルな場や作戦行動じゃなくてよかったと安堵し、私は入り口ドアの取っ手を握って勢い良くドアを開く。ハルの『バーバーちょもらんま鎮守府』と同じ音のベルが鳴り、店内に私の来訪と遅刻を知らせた。

「ごめーん! 遅れた〜!!」

 気まずさをごまかしたくて、わざとベルに負けない大声で、店内に自分の来訪を告げる。店内には、すでにあのときの懐かしい顔ぶれが……でもハルと球磨の姿はなく……揃っていた。皆それぞれにおめかししてて、みんなよく似合っている。

 北上はいつもの、あのときのセーラー服を着ているけれど、それが逆に懐かしい。加古は加古で、やっぱり以前のセーラー服を着ているが、窓際の席で寝転がっている。あの時と変わらない二人の姿は、私に少しだけ、安心をもたらしてくれた。

「はーい。川内も到着したから、やっと始められるねー」
「ごめん北上! お詫びに今度夜戦に付き合ってあげるから!!」
「んー……まぁ、それはいいや」

 手を合わせて詫びる私に北上は苦笑いを浮かべたあと、お店の奥へと消えていった。せっかく夜戦に付き合ってあげるってのに。……でも、戦わなくなった今、夜戦ってなにすればいいんだろう?

「遅刻よっ」
「ごめんごめん」

 黒のカクテルドレスにベージュのストールをまとったビス子が、ドアの前に立つ私の元に、コツコツと足音を響かせてやってきた。以前から着ている服が黒だっただけに黒のドレスがよく似合うし、何よりこういう格好をすると、気品が漂っている。さすが金髪碧眼。一人前のレディーは伊達じゃない。

 一方のもう一人の一人前のれでぃー暁は、提督に肩車をしてもらってはしゃいでいた。暁もいっちょまえにピンク色のカクテルドレスを着ていて……いや、ドレスに着られている。でもその様子が、逆に微笑ましくて可愛らしい。響の形見の白い帽子は、今日もしっかりかぶられていた。確かにちょっと浮いているけれど、あれがないと逆に暁じゃないもんね。その姿には、妙な安心感がある。


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