2. 胸が、少し痛い
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て目にも届いた水が、私の目尻を伝い、水浸しの浴室にぽたりと落ちた。
――姉さん
……うん。わかってるよ神通。早く準備しなきゃね。
――そうだよ とっても似合うキレイなワンピース、準備したんだからっ
うん。今日のために精一杯悩んで買った、黄色がキレイなワンピースだもんね。着なきゃもったいないよね。あの人に会うんだから。少しでも、キレイな自分でいなきゃね。
気持ちを持ち上げて、もう一度蛇口をひねってお湯を出す。今度は、出す前にキチンと蛇口に切り替えて。
そうして頭を洗い寝癖を直した後は、キチンと髪を乾かした。こんな時だからお化粧もちゃんとしようかと、ファンデーションをポンポンと肌に乗せたところで……
――あまり塗っちゃダメだよ?
川内ちゃんは肌がとっても綺麗なんだからっ
と、那珂に言われた気がして、慌ててうっすらメイクに切り替える。さすが私の姉妹だ。私のことを、よく知っている。それに時間も押している。あまり悠長に準備している時間はない。
――姉さん こういう時は、いつもより慎重に持ち物確認を
神通のそんな一言で、出る直前に携帯電話と財布を忘れている事に気づいた。慌ててそれらをバッグに入れ、私は改めて、姿見の前に立ち、自分の姿を確認する。
「……」
いつもと違い、鮮やかな黄色のワンピース・ドレスを着た私が、鏡の向こう側にいた。腰に大きなグリーンのリボンを巻いたこのドレスは、以前にあの人に言われたアドバイスを活かしたものだ。
『川内はあれだな。赤がよく似合うけど、黄色も似合いそうだな』
『そお?』
『おう。赤が似合うやつは黒も似合うって言うけどな。お前の場合は赤と黄色……なんか明るい暖色系が似合いそうだ』
『……』
『次に服買うときにでも、黄色を合わせてみ。買ってみろとは言わんが、試着だけならタダだしな』
『うん……へへ……』
あの日のそんなやり取りを思い出し、自然と口がほころんだ。彼にとっては他愛ないはずのやりとりでも、私の中では、宝石のようにキラキラと輝く思い出だ。
――姉さんっ
ハッとする。想定外のシャワーの時間があったから、予定よりだいぶ時間が押している。このままでは結婚式に遅刻してしまう……。
「しまった……急がなきゃ……ッ!!」
慌てて玄関まで走り、履きなれないパンプスを履いて、私は急いで目的地である、結婚式の会場、北上の喫茶店『ミア&リリー』へと駆けた。
………………
…………
……
そうして今、青信号のうちに交差点を渡りきることが出来ず、私は今、横断歩道の前で、前かがみの姿勢で肩で息を切らしている。
「ハッ……ハッ……」
『これで遅刻確定だ』私の心の中で、私の声が、そうつぶやく
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