第98話 閉ざされた世界、開かれた蓋
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も、理性はその事実を受け止めることに抵抗の意を表している。
……当たり前だ。所長さんはこんなに若いのに、四郷が今と変わらない姿だなんて、計算が合わないにも程がある。この写真が事実であるなら、四郷は今頃所長さんと大差ないボイン姉ちゃんであってもいいはずなのに。
――そんな悠長なことを考えていられるだけ、俺はまだ冷静なのだろう。
静かに写真立てを元の場所に戻し、俺はその場で思案に暮れる。四郷は、所長さんは一体……?
「あら、レディの部屋に無断で上がり込む紳士とは斬新ね」
「いっ!?」
その時だった。
この研究所と四郷姉妹の「見えない部分」を象徴付けるかのように、ほぼ全域に渡り暗闇に支配されていたこの空間が、無機質な光によって照らし出されてしまった。
反射的に閉じられた瞳が、徐々に明順応を終えて開かれ――挑発的な眼差しの所長さんが、俺の眼前に現れる。
「しょ、所長さん!?」
「部屋に来なさい、とは言ったけど、何から何まで好きにしていいとまでは言ってないわよ。しょうがない子ねぇ、そんなにお姉さんのことが我慢できなかったの?」
シャワー上がりなのか、バスタオル一枚という異様な格好。その姿に、俺は慌てて視線を逸らした。一方、向こうは俺が勝手に入ったことに怒る様子を見せず、むしろ鬼の首を取ったかのように、不敵な笑みを浮かべていた。
「なななな、なんでそんな格好!? シャワーって個室にあるんじゃあ……!?」
「うふ、相変わらずかわいいわね。電子制御室ってとこにもシャワーがあって、そっちの方を使ってきたのよ」
「……電子、制御室? そんなところで何を――」
「ま、それは後で話すわ」
こちらにゆっくりと歩み寄る彼女は、写真に写るポニーテールの少女とは、比にならない妖艶さを全身から匂わせている。だが、その目元や髪の色、艶やかな唇には――確かに、面影のようなものも伺えた。
最低限の面積しか持たない、桃色の布。その端から覗いている、成熟した肌で形成された渓谷と、流れるようなラインを描く脚。そしてシャンプーの扇情的な香りと、彼女の唇、胸、肢体を撫でるように伝う滴が、俺の意識を誘っているようだった。
そんな彼女は俺の傍らを通り過ぎると――その奥にある緑色のランプに向けて、指を伸ばしていた。
「……なっ!?」
そこで俺は、自分のすぐ傍に存在していた、棺桶のような形状の機械を目の当たりにする。
頑丈に鉄の蓋で覆われているかのように、無骨な作りになっていたソレは、どうやらさっきまで俺が見ていたランプらしき光に通じる器具だったらしい。所長さんは緑ランプの近くにある何らかのボタンを操作すると、スッとその場から離れてしまった。
――何かに絶望しているかのような、暗い表情を浮かべて。
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