第98話 閉ざされた世界、開かれた蓋
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になりそうだ。理屈じゃない、本能に響くような不気味さが――俺を引き離させたんだろうか。
部屋自体の薄暗さもあってか、ますますこの辺りが気味の悪い空間に思えてきてしまう。俺はそんな不快感から逃れようとしたのか、奥の方で妖しく点滅する電子器具のランプらしき光に興味を移した。
部屋の電気が消えている中で、まるで独立して機能が生きているかのように光り続ける、緑色の光点。
その発光に誘われるかのように、俺はそこへ向かって静かに歩み寄る。
そして、そこへたどり着くまでもう少し――というところで、俺の目に光点とは別の存在が留まる。
緑色の発光に照らされたためか、これだけの暗さの中でもハッキリと存在を認識できる物体があった……写真立てだ。
「これは……」
とにかく別の何かに興味を移して、不安を削ぎたかった。そういう気持ちもあってか、俺はそこへ向けてまっすぐに手を伸ばす。
暗闇の中に生まれる感触。その先からこちらの視界へ写り込んだものは――十五歳くらいと十二歳くらいの少女達が、海を背景に笑い合う姿だった。
二人とも仲睦まじく抱き合い、満面の笑みでカメラにピースサインを向けている。両者は白いワンピースを着て青みが掛かった髪の色を持っており、背景もあって涼しげな印象を漂わせていた。
片方は見たこともないポニーテールの美少女だが……もう一方のサイドテールの娘は、多分――俺の知ってる娘だ。
彼女の――四郷の友達なのか?
写真に写っている四郷らしき眼鏡を掛けた少女は、今の姿からは想像も付かないような、心から幸せそうな笑顔を浮かべている。隣に立つ少女にも、よく懐いてるようだ。
……少なくとも、彼女にもこういう時代があった、ということなのだろう。気掛かりなのは、何が彼女をここまで変えてしまったのか、だ。
その起点はどこにあるのか。それを探ろうと、この写真が撮られた時――まだ彼女が元気だった時は何時なのかと、俺は写真の下部へと視線を落とし――
「!?」
――凍り付く。
二〇十六年八月十日。この写真が撮られたのは、今から十三年も前のことだったのだ。
普通に考えれば、有り得ない。なぜ俺よりずいぶん年下くらいの四郷が、この頃と変わりない容姿なんだ!? 二〇十六年ってことは……俺がまだ四歳かそこらの時じゃないか!
しかも、その隣にマジックで書かれていた文字が、さらに衝撃的に俺の認識を覆す。
日付の傍に書かれている「あゆみ」「あゆこ」という文字を覆う、相合い傘。それが意味するものを悟った瞬間、四郷の隣にいるポニーテールの少女が誰なのか、俺は理解せざるを得なかった。
そして、その見解が正しければ――この日付にも、多少は納得がいく。
だが、この写真の意味そのものは理解していて
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