第97話 花火と矢村と帰る場所
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う。矢村の前……だからなのか?
「そんなことばっかりだけど……こうしてここに来て、またお前と花火で遊んでると……昔に戻ったみたいな気がして、正直、安心してる自分がいるんだ。明日の事情とか考えてみたら、俺の方がよっぽど遊んでる場合じゃないんだけど……でも、必要なことだって気がするんだよ」
「龍太……」
「――なんていうか、その、安心するんだよ。やっぱり。着鎧甲冑とか『新人類の身体』とかコンペティションとか、いろんなことに囲まれてても……俺はやっぱり、松霧町の一煉寺龍太なんだ、って。何があっても、俺はここに帰ればいいんだ、って、そんな気分になれるっつーかさ……」
……もう、完全にコントロールが効いてない。俺は、何を言おうとしてるんだろう。しかも、止まる気配はまるでないけど……それが「ヤバい」と感じてはいない。
「だから、さ。ここにお前が居てくれて、良かったって思ってる。お前がここに居てくれたから、俺は俺でいられてるんじゃないかって、そんな感じ。つーわけで……まぁ、ありがとう」
――そして、口をついて出た言葉を自分自身で確かめた時、俺はようやく「全部の気持ちを吐き出せる」くらい、矢村のことを信じている自分に気づくことができた。
「……あ、あ、う……」
彼女はそれに対して、どう反応するべきか迷っているのか――これ以上はないというくらい顔を紅潮させて、視線を泳がせている。
俺はそんな彼女が可愛らしくてしょうがなかったのか――無意識のうちに頭を撫でていた。黒く艶やかなセミロングの髪が、月明かりの中でふわりと揺れる。
「ひゃん……!」
子猫のような高い声を上げて、気持ち良さそうに頬を染める彼女の姿は、さながら付き合い始めたばかりの恋人のようだった。俺が恋人のポジションに立つには、いささか力量不足ではあるが。
「さて。じゃあ用事の途中だったし、俺はそろそろ行くよ。花火、使わせてくれてありがとな」
俺は灯を失った花火を、用意されていたバケツの中に放り込むと、すっくと立ち上がって踵を返す。
いつまでもここにいたい、という気持ちもあるにはある。だが、俺にやらなきゃいけないこと、行かなきゃいけない場所があるのも事実だ。
「それと、後で救芽井にも会ってみる。教えてくれてサンキューな」
「う、うん……」
彼女が帰る場所なら、いつかそこへ帰ればいい。それまでは、戦おう。
その時、ねずみ花火に翻弄され尽くしてゼェゼェと息を荒げていた久水と、そんな彼女の頑張る姿を見て悦に浸っていた(?)四郷も立ち上がり、こちらへと視線を向ける。
「あっ、りゅ、龍太様……明日のコンペティション、はぁ、はぁ、が、頑張って下さいまし……ひぃ、ひぃ、ワ、ワタクシ、全身全霊を込めて、お、応援しますわぁ……」
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