第97話 花火と矢村と帰る場所
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んでいた矢村の私物なのだろう。中学時代、彼女のカバンから特撮ヒーローのソフビ人形が出てきた衝撃は、高二になった今でも記憶に新しい。
「悪い、邪魔しちまったかな?」
「ううん、気にせんでええよ。――ホントはこんなことしとれる身分やないんやろうし、明日のことを考えたら、そういう場合でもないんやろうけど……やっぱし、アタシは部屋ん中におるよりはこっちの方が、落ち着くけん。それにこの二人も、花火はほとんど初めてみたいやから、えぇ機会やないかって思うてな」
「たはは、実にお前らしい。こんなに用意してたんだったら、俺も誘ってくれりゃあ良かったのに」
「……ごめん。なんか龍太、思い詰めとる顔しとったけん。救芽井みたいに」
俺は彼女ならではの動機に口元を緩めると、山のように重ねられていたおもちゃ花火の中から、一本の変色花火をおもむろに手に取る。矢村はそれを見て気を利かしてくれたのか、先端のヒラヒラした紙の部分に、持っていたマッチで火を付けてくれた。
「ちょっ、あなた達ッ! ワタクシを差し置いて何を勝手にいい雰囲気――ひぎぃぃぃぃぃっ!?」
「……二発目発射。梢、ファイトー……」
――久水、なんか茂さんに似てきたな……。四郷も四郷で、「今回だけは譲ってあげる」みたいな謎の視線送ってるし。
そして紙が燃え尽き、細い筒へと火の手が伸びると――鮮やかな火花が、燻りから解き放たれるかのように噴き出して来る。隣で彼女も、俺と同じ種類の花火に点火しようとしていた。
「救芽井も?」
「うん。なんて言ったらええんかな……。ずっとあんたのこと見ながら、心配そうな顔しとったわ」
自分の手中で健気に輝く線香花火を、夢中で見つめる四郷。まばゆい火花を散らして暴れ回るねずみ花火に翻弄され、目に涙を貯めて逃げ惑う久水。そんな彼女達の一時を眺めながら、俺達は噴き出す炎に目を奪われたまま、言葉を交わす。
「心配……か。まぁ、そうだろうな。なにせ、明日のコンペティションに救芽井エレクトロニクスの未来が掛かってるかも知れないんだ」
「ちゃう、と思う。救芽井が心配しとったんは……多分、あんた自身のことやで」
「俺自身?」
「……むー、こっから先は自分で本人に聞きっ!」
何が気に入らなかったのか、彼女は可愛く頬を膨らませると、持っていた花火もろともそっぽを向いてしまう。あ、そっちにはねずみ花火が――
「え――きゃああ!?」
「うわっ!?」
――だが、気づいた時には遅かったらしい。彼女が変色花火を向けた先に置かれていた、まだ使われていないねずみ花火。知らず知らずのうちに、持っていた花火でそれを点火させてしまった矢村は、火を噴き出していきなり暴走する物体に仰天してしまった。
そして、気が動転したのか――彼女は、縋るよ
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