第97話 花火と矢村と帰る場所
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できることなら否定してしまいたい。そんなことはない、と叫びたい。しかし、心のどこかに納得してしまっている自分がいるのも、事実なのだ。
「……ちょっと、夜風にでも当たって行くかな」
――だが、それが真実なのだとしても、明日のコンペティションから逃げていい理由にはならない。例え間違いであったとしても、この競争にだけは、負けるわけにはいかないはずだ。
正しいこと、そうでないこと。それが何なのかを考えるのは、コンペティションが終わってからでも遅くはない。一生が終わるまで答えが出ないものというのなら、尚更だ。
俺は短く深呼吸を済ませ、再び歩き出す。向かう先は、ロビーの外。
少々寄り道になるが……あれこれ悩んだまま部屋に向かって、話が頭に入らないよりはよっぽどマシだろう。
黄金の輝きを天から放ち、闇に覆われた大地を美しい空間へと彩る、円形の恵み。
「満月」と呼ばれるその光に照らされた外界は、研究所の入口から漏れている光明を差し引いても比較的明るく、暗順応が完了するまでさほど時間は掛からなかった。
――だが、それにしても今夜は妙に明るいな。どうも、月の光と研究所の照明だけではないような……?
「どやっ、ここからが本番やけんな! 五本いっぺんにいくでぇーっ!」
「きゃあああっ!? そ、そんなに激しく出しちゃらめぇえっ!」
「……梢、怖がりすぎ……」
その時、静けさゆえに敏感になっていた俺の聴覚が、少女達の話し声を明確に捉えた。……捉えたんだけど、一体何の話をしてるんだ?
どこか聞き覚えのあるような、何かが弾ける音を拾いつつ、俺は声の主を追って、研究所の裏手へ足を運ぶ。
照明の漏れとは明らかに異質で、それでいて不規則な点滅を繰り返す光。それらは鮮やかな色を放ち、近づくに連れて俺の視神経を強く刺激していく。
次第に聞こえて来る声も音量を増し、やがて光の出所である曲がり角へとたどり着いた。そして、その瞬間――ようやく、俺はその実態を掴むことができた。
「あっ、龍太! なんや、龍太もやりに来たん?」
「ひゃああああああッ! りゅ、龍太様、助けて下さいましぃぃッ! ね、ねずみ、火のねずみがぁぁぁッ!」
「……梢、泣かないで。大丈夫、梢は強い子だから……」
「人事みたいに見てないで、鮎子も助けるざますぅぅぅぅッ!」
――どうやら、花火大会の真っ最中だったらしい。
五本いっぺんに噴き出す、色とりどりの鋭い炎。久水を追い回し、ねずみの如く地表を駆け巡る、炎の移動物体。そして、控え目でありながら「自分に気づいてほしい」とささやかに願うように、儚く火花を放つ小さな球体。
変色花火にねずみ花火に線香花火。おもちゃ花火の定番そのもの、といったところか。
大方、男の子のおもちゃを好
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