第96話 逡巡と懺悔と後悔と
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を言うか! バーベキューとは欲望を巡る骨肉のサバイバル! そんな正論が力の世界で通用するとでも――ってあれ?」
「はふはふ! ふははは、バカめ! はふはふ、貴様の狙いは、はふはふ、ワガハイが喰らってやったわ! はふはふ!」
「……いや、熱いんだったら無理すんなよ」
俺の手を掴んで制止を試みる救芽井達や、出来立てアツアツの串を突っ込んで熱に苦悶する茂さん。相変わらず騒々しくはあるが、どことなく愉快な気持ちにさせてくれる空間が、ここにはある。
「……美味しい……」
「だろう? なにせ、矢村先生が直々に焼かれたお肉ですからなぁっ!」
「もっ――もぉ龍太ぁっ! 褒めても何も出んけんなっ!」
「あら、これ肉たっぷりじゃなーい! 頂きっ!」
「あ、あー! それ、龍太の分に焼いた奴やのにぃぃっ!」
「お肉の味が愛情ごと染み込むわぁ〜……。あなた、いいお嫁さんになれるわよっ」
「えっ!? そ、そやろか……。え、えへへ〜、それほどでもあるんやけどぉ〜!」
「……矢村さん、おだてに弱すぎ……」
そんな中に、今は四郷もいる。相変わらず口数は少ないが、こうしてみんなの中へ溶け込んで言葉を交わしている光景など、昨日までは想像も付かない状況だ。
――そう、彼女だって、こんなに変われたんだ。あの人だって、話せば何か、掴めるかも知れない。
「瀧上のことが気になるかね? 一煉寺君」
「あ、伊葉さん」
ふと、俺の胸中を見透かしたような声が聞こえて来る。口調は穏やかだが、振り返った先に見える表情は、どこか曇りを含んでいるように見えた。
「……あの人、ずっとこっちに来ないんですよ。なんていうか、壁を作ってるっていうか……」
「そうだろうな。今の彼は、そういう男だ」
「『今』は……?」
「ああ。君は、昔の彼によく似ているのだよ。故に頼もしく――そして、恐ろしい」
重々しく呟かれるその一言は、様々な感情がないまぜになったかのような、複雑な声色を湛えていた。
懐かしむ気持ち、哀しむ気持ち、そして何かを恐れる気持ち。それが何から来るものなのかも、何処へ向けられているのかも俺は知らない。……が、瀧上さんに関わっていることだけは、恐らく間違いないのだろう。
「……龍太君、聞きたいことがある。君は『絶対に正しいこと』が何か、知っているか?」
「えっ……?」
その時、伊葉さんと瀧上さんの関わりについて思案に暮れていたところへ、彼はやけに漠然とした質問を投げ込んできた。
……「絶対に正しいこと」……? なんだってんだ、急に……?
表情を伺えば、それがいかに真剣な質問であるかはすぐにわかる。バーベキューやってる最中にブッ込むような話題ではない気もするが。
「うー……ん……。『人の命を救うこと』
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