第95話 「罪」の片鱗
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像もしたくないんですけどッ!
「そ、そうだ! 今、海辺でバーベキューやろうってとこだったんすよ! 伊葉さん達もどうっすかね!?」
……よっしゃあぁあ! 我ながら超無難な対応だぜ! ちょうど野菜を取るついでに誘うつもりだったし、これはなかなかナイスな答えだったんじゃないか!?
「……ほほぉ、バーベキューか。なかなかいいものではないか。せっかくだから、ご一緒させて頂こうかな」
俺の期待通り、伊葉さんは柔らかな表情を浮かべながら、すたすたと廊下を歩いていく。
その広い背中をしばらく見つめた後、俺は開かれたラウンジの扉の方へ向き直り――
「あ、えーと、瀧上さんもどう――!?」
「――そうだな。オレもご馳走になるとしよう」
――常軌を逸した雰囲気に呑まれ、身動きが取れなくなった。
発している言葉こそ、平和的な響きを持ってはいるが……その眼差し、そして全身を覆うオーラで表現された、どす黒い感情は――気が変になって笑ってしまいそうなほど、口にした言葉と相反した空気を纏っている。
人生経験の豊富さゆえか、ただ歩くだけでも優雅さを醸し出している、伊葉さんの背中。そこへ向けられた瀧上さんの眼光は、彼を背後から突き殺そうとするかの如く、鋭く妖しい輝きを放っているように見えた。
それだけではない。鍛え抜かれた成人男性の逞しさが滲み出る、精悍な彼の顔立ちは――今や、鉄仮面のように無表情になっているのだ。
全身から噴き出される、憎悪とも云うべきオーラの塊と、それに基づくように存在している鋭い瞳。その二つを同時に持っていながら、表情だけは、まるで感情という概念が欠落してしまったかのように、本当に「何もない」のだ。
考えたくもないし、該当しているなどとは露も思いたくはないが――去年の正月に、親父が語っていた「殺意」と呼ばれる感情に近いものを感じる。
若い頃、裏社会の悪を狩る一煉寺家の拳士として、ヤクザやマフィアとの格闘を繰り返していたという親父が語るには、「本気で殺す」つもりの人間には、「表情だけ」がまるでないらしい。
『――殺したいほど憎いのに。全身から、そんな憎悪が滲んでいるのに。顔にだけは、それが出ない。まるで、能面を被っているかのように。殺すことにしか頭にない人間には、人間らしい感情が邪魔になるから、なのかも知れんな……』
そんな親父の言葉が、この一瞬の間で幾度となく脳裏を駆け巡る。それゆえか、ほんの数秒に過ぎないはずの時間が、まるで数時間相当のように思えてしまった。
こちらに向けられた視線でもないというのに、彼の眼差しを見ていると、身が凍り付いたように動かなくなる。気がつけば数滴の嫌な汗が、顎を伝って床へと落ちていた。
やがて瀧上さんは一度もこちらに目を合わせない
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