第94話 夕暮れと笑顔と儚さと
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か久水のことを応援してるんだったよな? なんであいつがそんな話題に絡んで来るんだ?
「……でも、そのどうしようもなく最低なところに助けられたんだから、皮肉よね」
「なんすか、それ?」
その時、所長さんの表情が変わる。
冷ややかな視線は暖かなものへ性質を変え、口元は僅かに緩み――微笑みの様相となった。
――しかし、さっきから、所長さんが何の話をしているのかがまるで掴めない。違う話題に移ったんだろうな、っていうのは辛うじてわかるんだけどな……。
「下心も、恋も、異性も、何もない。友達作って仲良く遊びたい。そんな頭スッカラカンで、どうしようもないバカだから――そんなあなただったから、鮎子もああして、やっと人間らしく、生きられたのよ」
「なんだそりゃ。褒めてるのかバカにしてるのか……?」
「もちろん褒めてるわよ。あなたみたいなのと関わったばっかりに、鮎子もあれこれ悩むのがバカバカしくなったんでしょうねぇ。はた迷惑な話よ、全く」
先刻のイジリ大会にも劣らぬ程に俺をこき下ろす彼女――だが、その表情はまるで実の兄弟にでも向けられているかのような、包容力の滲み出る温もりを放っていた。
「……今日は、ありがとう。期待以上だったわ、一煉寺君。剣一からあなたのことを聞いた時、もしかしたらって少しだけ思ってたけど、本当にあなたならなんとかしてしまいそうな気がしてきたわね」
「何の話――ってか、剣一って……もしかして古我知さん!?」
意外な人物の名前を耳にして、俺は思わず目を見開いてしまう。……久水や茂さんだけじゃなく、古我知さんとも知り合い……!?
いや、でも……古我知さんから俺の話なんて、どうやって聞いたんだ? 彼は今、アメリカの刑務所に服役してるはず。もしかして、そこまで研究所ほっぽりだして会いに行ってたのか?
それとも、やっぱり古我知さんはあの――
「今晩、私の部屋に来なさい。救芽井さんも、着鎧甲冑も、剣一さえも救ったあなたになら、賭けてみてもよさそうだから……」
――だが、その言葉が彼女から出た瞬間、俺の思考は掻き消され――
「さぁみんな、もう日が落ちて冷え込むころだし、そろそろ帰るわよぉー! 明日に備えて、もりもり食べてぐっすり寝ましょー!」
未だに話し込んでいた女性陣達の方へ向かう、所長さんの背中を眺めても――俺はただ、えもいわれぬ不安感を抱くばかりだった。
彼女の背をすり抜け、俺の方へと吹き抜ける風が……その気持ちを煽るかのように、暗く、冷たく囁く。
――彼女は、俺に何をさせようとしている……?
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