第93話 水上バレーと友情プログラム
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掴まれ、制止されてしまった。無言で状況を見据えている彼女は、視線で「ここは任せて」と訴えてきた。
――親友のことは自分が助けたい、か? やっぱり、冷たい体には似合わない心をお持ちのようで。
でも、水が苦手な彼女に任せるわけには――いや、案外悪くないかもな。
心配ではあるが……ここはやって「見せて」もらうか。
俺は口元を緩めて、彼女に道を譲るようにイカダの縁まで移動する。表情のないまま、それを見届けた彼女は「あっぷあっぷ」とジタバタしている久水の方を見詰め、イカダの上からクラウチングスタートの体勢になった。
ともすれば、水の中にダイブしようとしているようにも見えてしまう格好だが、彼女の目を見れば何をしようとしているのかは大体察しが付く。
「……マニピュレートアーム、展開ッ!」
そして、彼女が弓のように背中をのけ反らせ――
「……はあぁッ!」
ビクンビクン、と滑らかなラインを描く身体を震わせると同時に、一本の巨大マニピュレーターが背面から飛び出してきた!
無機質な青色で彩られた、たった一つの大きな腕は、親友を救うためにグン、と宙を駆けるように伸びていく。海面スレスレを、水を切りながら疾走するその様は、さながらトビウオのようだった。
そして、その速さは――明らかに、午前の性能披露の時を超えている……!
「――ぷはっ! はぁっ、はぁっ……!」
そして、あっという間に現場にたどり着いたマニピュレーターは激しい水しぶきを上げると同時に、その巨大な掌に久水の身体を乗せる。
こうして「水揚げ」された彼女は、息を荒げたままで、自分の背中に感じる固い感触に気づくと、四郷の方へ視線を向けた。
「あ、ありがとう、鮎子……ハァ、ハァ、た、助かりましたわ……」
「……ううん。梢が元気なら、それでいい……」
そして、僅かな言葉と熱い視線で、感謝の言葉を掛ける久水。それに対し、はにかむような、ほんの僅かな笑みを浮かべる四郷。
二人の世界――とでも云うのだろうか。俺のような外部の人間からは到底知り得ない、彼女達の間にだけある思いが、機械仕掛けの腕を通して行き交っているかのようだった。
「あの距離から一瞬で……。さすがね、四郷さん」
「ち、近くで見ると、やっぱすごいんやなぁ〜」
「ふふん、どう? 私の妹も、捨てたモンじゃないでしょ?」
「……あっ……」
だが、そういうところを周りから見られていると意識してしまうと、本人としては気恥ずかしいものがあるらしい。美しい救出劇に感心している救芽井達の視線に感づくと、慌てて腕を引っ込めてしまった。
おかげで久水がまた背中から海水にポチャンと落ちてしまい、降り出しに――はさすがにならなかった。咄嗟に背後に回って抱き留めた救芽
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