第91話 どうせなら、仲良しの方が
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四郷のことも十分心配だけど、そろそろ一言ブチまけとかないと……!
「あの、所長さ――んっ?」
……という心境で、意気揚々と海を目指しているかに見えた所長さんの方へと振り返る。
だが、彼女は――俺が目を向ける前から、こっちにチラリと視線を送っていたのだ。まるで、俺の胸中など、全てお見通しであるかのように。
なんだ……? 所長さん、何か言いたげだったようにも見えたけど……。
「……一煉寺さんも、行けば?……」
そうして、俺が所長さんの向ける視線にたじろいでいるところへ、今度は妹の方が背後から声を掛けて来る。無関心そのものというか、排他的とも言えるような声色になっていた。
――それだけ、縁がない世界だっていうのか? 彼女にとって、俺達がいる場所というのは。
……そんなこと、ないだろ。
こんなに近いのに。日なたと日陰っていう違いしかないのに。縁がないとか、自分には関係ないとか、そんなこと、あるもんかよ。
「まぁ、行こうとは思うけどさ。四郷はどうすんだ? 本読んでることを悪く言う気はないけどさ、たまには日なたでエンジョイしても悪くないんじゃないか?」
「……確かに、そうかも知れない。けど、泳げないボクに、なにがエンジョイできるの……?」
にべもない返事で拒絶する彼女。その声色には、微かに怒気が含まれている。
「新人類の身体」ゆえの弊害――ってところなのだろうか。泳げないという点に限らず、あれだけ人間離れした彼女の能力は、その強力さに比例するように、人を遠ざけていたのかも知れない。
……まぁ、だからといって引き下がるほど、割り切りのいい性格でもないんだけどな。俺は。
「――そっか。じゃあ、海に出れれば遊んでやってもいいよ、ってことだな?」
「えっ……?」
遊びたくないのは、ここから動きたくないのは、自分が泳げないから。自分がそういう体だから。
そういうコンプレックス染みた動機で遊べないのなら、そこを曲がりなりにも解決してやるしかないだろう。
本人だって、それが出来れば頑なに拒否したりはしないはず。俺が漏らした一言に、それまで興味なさげだった彼女が、急に驚いたような表情で顔を上げたのだから。
「所長さーん、ここってゴムボートとかないんすかー?」
「うーん、残念だけど遊泳に使えるボートは置いてないわねぇ。あるにはあるけど、緊急避難用のエンジン積んでるタイプしかないわ」
「あ、わかりましたー。んじゃ、あそこの木、ちょっと使わせて貰っていいすか?」
「……えぇ、それなら、いくらでもどうぞ」
さっきからこちらを見続けている所長さんも、大体俺の考えてることには気づいているらしい。バレーしようって時にいきなりゴムボートの話を持ち込んで来たというのに、ス
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