第91話 どうせなら、仲良しの方が
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! 今度の景品は無修正なんでしょうねっ?」
「なにをエッチなこと考えとるんや、あんたは!? 全くもぅ、龍太に纏わり付く虫ってホントに変態ばっかりやなっ!」
「あなたにだけは言われたくありませんのよ……」
どうやら、所長さんはまだまだ遊ぶ気満々らしい。バレーボールを両手で掲げ、セルフ装備のダブルボールをこれみよがしに揺らしていらっしゃる。
そして、なんか怪しい欲望を垂れ流しながら、他の女性陣三名も彼女に続いて海へと向かおうとしていた。
「海ぃ〜水着ぃ〜バカンスぅ〜おっぱいぃぃ〜!」
一度はビーチという名のマットに沈められた茂さんも、彼女らを追うように起き上がってきた。両手をぶらぶらさせながら、前のめりになるように歩き出すその様は、最早ただのゾンビである。
つか、最後の一言で完全にタガがはずれていらっしゃるな。こんな自爆的エロリストが財閥当主やってるんだから、世の中なにが起こるかわかったもんじゃない。
とにかく、今度は俺も参加しようかな。さっきは不審者の件で遊びどころじゃなかったし。
そんな心境で、俺は茂さんを後ろから見張るように歩き出す――が。
「…………」
そこから先に、進めなかった。
――というよりは、進む気になれなかった。
久水がしばしばこちらに向けて送る、誰かを案じる眼差しに気づいた瞬間、俺は金縛りにあったかのように動きが止まり――そして、彼女が「相変わらず」動かないままでいるという事実に、改めて直面する。
「四郷……」
「…………」
振り返った先に見える世界――たった一つの傘に閉ざされた、涼しげでありながら、どこか閉塞的なその空間。そこは、まるで彼女だけが違う次元に取り残されているかのような空気を作り出していた。
向こうはこちらなど見えていないかのように、ただ黙々と読書を続けている。比喩ではない、文字通りの「温度差」というものが、俺と彼女の間にある溝を、ますます深めてしまっているようだった。
自分には関係ない、自分が周りと一緒に遊ぶことはない。それが、彼女にとっての当たり前であるかのように。
――だが、そこに自然さはない。そうあるのが自然、という気にはならなかった。例え、彼女がどれだけ済ました顔をしていても。
彼女は……無理をしているのではないか?
根拠がなくとも、そんな言葉が何度も脳裏を過ぎるくらい――彼女の能面のような表情には、どこか堅苦しく、不自然な雰囲気が漂っているように感じられたのだ。
自分はこうでなくてはいけない。自分は一人でなくてはいけない。そんな叫びが、聞こえた気がする……。
――って、そもそも所長さんは何を考えてるんだよッ! 妹が泳げないのを知ってて、なんで「海でバレーしよう」なんて言い出すんだ!?
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