第90話 森の中の変態
[3/6]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
チの裏手にあるこの小さな林は、思いの外、快適な環境にあった。程よく陽射しを阻んでくれるおかげで、避暑地にも持ってこいみたいだし。
しかし、あの人影の主らしき姿は一向に見つからない。もう林を抜けて、どこかに逃げたのか?
――いや、多分そんなの無理だ。この林は、ビーチと崖に挟まれる形になっている。この先に逃げたって、崖に行き止まるだけだ。
崖をよじ登れば、俺達が来る時に使った道路の辺りまでたどり着くだろうが……正直、そんなことをしたら四郷や他の皆からは丸見えだろう。
わざわざこんな逃げ場のない場所で、誰がコソコソと何を見ていたんだ……? ただの美少女目当ての盗撮マニアにしては、時と場所がピンポイント過ぎる。
――やっぱり最初に睨んだ通り、アレは「俺の知ってる人」だったのか……?
思案に暮れるうち、俺は木の幹に背中を預け、翡翠色の天然パラソルに阻まれかけている、コバルトブルーの空を見上げた。草を掻き分ける際にできた擦り傷がヒリヒリと痛み、俺は思わず腕をさする。
「……人の気も知らないで、蒼く晴れ晴れしく広がりやがって。たまには俺の気持ちに便乗でもして、曇ったらどうなのよ」
――などと、バカンスには似つかわしくない愚痴を垂れるくらい、俺は疲れてるらしい。「必要悪」の件もあるのに、これ以上正体不明の人影なんぞに振り回されたくないしなぁ……。
「――ま、今回はアッチの件より察しも付きやすいし、まだマシってことにしとこうかな。……もう随分と時間も経ったし、手ぶらだけどそろそろ帰るか」
これ以上悩んでも探しても、恐らく得られるものはあるまい。林の中一帯をあらかた探しても、痕跡一つ見つからない辺り、向こうもそれ程バカではないのだろう。
ここは一旦退却あるのみ。そう判断し、木から背を離した瞬間――
ガサッ!
「――誰だ!」
刹那、俺は「腕輪型着鎧装置」を構えて臨戦体勢に入る。眼前では、俺の身長並に高い草が何者かの侵入を知らせるかのように、ガサガサと音を立てながら揺らめいていた。
人影の正体か? そっちから会いに来るとは、何が狙いだ……!?
茂みを揺らす音が次第に大きくなり、頬から顎へと嫌な汗が伝う。草から出てきた瞬間に攻撃される危険に備え、ジリジリと木の幹に隠れるように後ずさる。
そして、ついに茂みから――人の手が飛び出した!
「ッ! ……って、あれ?」
「ぷはぁっ! あーもぅ、ここに来るだけで汗だくになっちゃう。……あらっ!?」
だが、その白く細い手は、俺の予想を大きく裏切るものだった。出て来たのは三十代後半のオッサンどころか、灰色のパーカーを羽織った、ビキニ姿の救芽井だったからだ。
俺はすっかり脱力してしまい、再び木の幹にもたれ掛かってしまう
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2025 肥前のポチ