第89話 四郷鮎子の隣にて
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た時。四郷の傍らに落ちていた一冊の本が、俺の新たな関心を引き寄せていた。
……そういや、四郷ってどんな本読んでるんだろう? 知ってる本なら話題のタネくらいには――ならないな。俺、本なんて基本読まないし。ただしエロ漫画は除く。
そんな駄目元精神全開のまま手に取った本は、意外にも軽く、それほど難しい本でもなさそうに見える。文庫本くらいの大きさであり、カバーは緑。小説だろうか?
「タイトルは……えーと、『イケない彼との恋事情』?」
「……えっ!? あっ!?」
すると、題名に反応した四郷が、珍しく驚いたような甲高い声を上げる。いや、驚いたのはこっちだよ。いつも済ました顔してる四郷様が、まさか恋愛小説なるものを嗜まれておられたとは……。
普通ならここで返してあげるのが筋なんだろうが、あいにく俺はそこまで聖人君子ではない。別におとしめる気なんて毛頭ないが、せめてサンプル程度にチラッと拝読させてもらおう。
俺は取り返そうと手を伸ばしてきた四郷を、条件反射で上体を後ろに引いて回避すると、ページをいくらかめくって試し読みに突入。そこで見たものは――
『あんっ! そこは……そこはダメ! ダメなの……!』
『何がダメなんだ? ほら……体は正直じゃないか』
『い、いじわる! もう……もう、我慢できない……』
『ようやくその気になってくれたみたいだな……いいぜ、今夜はたっぷり朝まで可愛がってやるよ……』
――恋愛小説どころではございませんでしたとさ。
「こ、これって官能――ベグアアァアッ!?」
「……ち、違う! ボクじゃない! これはお姉ちゃんが勝手にっ……!」
巨大マニピュレーターによる剛直ストレートの一撃で、日陰の遥か外にまでベイルアウトされた俺に対し、四郷は涙目になりながら必死に事実隠蔽を図ろうとする。
――その勝手に寄越されたシロモノを、超真剣に読み耽っておられたムッツリ様はどこのどなたでございまするかー!?
今までにない表情を、次から次へと披露してくる彼女。それと同時に繰り出して来る、巨大マニピュレーターの痛烈なお仕置き。
果たしてそれは、友好への第一歩なのだろうか。
そうだとしても代償が重過ぎる、と強打した頭をさすり、俺は人の気も知らずサンサンと輝く太陽を睨み――ただ、ため息をこぼすのだった。
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