第89話 四郷鮎子の隣にて
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なか可愛らしいデザインじゃないか。
「そういや、久水ん家に行った時も被ってなかったっけな。もしかして、滅多に被ってないの?」
「……これは、お姉ちゃんがくれた宝物だから……。……絶対に、なくせない。そのための、迷惑も掛けたくない」
「迷惑? ハハ、もしかしてあの時のこと言ってんのかよ。まぁ確かにびしょ濡れにはなったけどさ、そんな大したことじゃないだろアレは」
「……そんなこと、ない。一煉寺さんみたいな人に、迷惑、掛けられない……」
「強情だなー。ったく、気にしなくたっていいだろ、それくらいしか理由がないなら。いくら大事だからって、ちゃんと使ってやらないと所長さんが可哀相だろ」
そこまで口にして、俺は四郷が頑なに姉を想っているのだという側面に対し、不審さを覚えていた。……自分を機械の体にした姉を、ここまで大切にしている……やっぱり、「新人類の身体」は姉妹の合意によるものだったんだろうか……?
「……でも……」
口ごもる彼女。その姿は、グランドホールの時からは想像もつかないほど可憐で、外見通りの「少女」そのものだった。
もし自分に妹がいたなら、こうしていたのだろうか。気がつけば、俺はしゅんと僅かに肩を落としていた彼女の頭上に、掌をそっと乗せていた。
……「新人類の身体」が何であろうと、この娘は「普通の女の子」。それだけは変わりようがないのだと、俺は彼女の姿から再認識していたのだから。
姉のプレゼントは大事にするし、人に気を遣うこともある。ただの化け物に、そんな感情は必要ない。それをきちんと持ってくれている彼女なら、きっと化け物になんかならない。今は、そう期待していよう。
「まー、気にすんなよ。何回なくしたって、俺が何回でも探してやるさ」
「……ッ!?」
――すると、彼女は俺が何かヤバイことでも言ってしまったのか、目を見開いて固まってしまった。信じられない、という気持ちを全身で表現するかのように。瞳に潤みを帯びさせ、頬を朱に染めながら。
そして、我に帰ったかのように「ハッ」とした仕種を一瞬だけ見せると、ガバッと体育座りの姿勢で顔を埋め、全く動かなくなってしまった。その傍らに、彼女がさっきまで熟読していた本がバタリと落ちる。
「……ばか……」
「な、なんですとー!?」
そして次に出てきたのは……罵声でしたとさ。
いやさ、今結構イイコト言ったと思うんだよね、俺。「何回でも探してやるさ」ってフレーズ、個人的には割とイケてる方だと思うんだ。
なのに……出て来た返事は「ばか」の一言……か。ちくしょー! エロゲだったらフラグの第一歩だったのに! これでちょっとは話しやすい空気になれるかと期待してたのにぃっ!
「……ん?」
そうして俺が内心涙目になりながら頭を抱えてい
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